大学卒女性の働き方別生涯賃金の推計(令和5年調査より)-正社員で2人出産・育休・時短で2億円超、男性並で3億円超

2024年10月23日

(久我 尚子) ライフデザイン

2大企業勤務かつ65歳で退職の場合~男性並みの賃金水準の女性は2人出産でも復職で3億円超
同様に12の働き方について、大企業勤務(企業規模1,000人以上)の場合や65歳で退職した場合、男性労働者と同等の賃金水準にある女性の場合(標準労働者のみ)について推計した結果を図表15に示す。その結果、当然ながら60歳で退職した場合より65歳で退職した場合の方が、退職年齢が同じ場合は大企業の方が、女性労働者の賃金水準より男性労働者の賃金水準で推計した方が生涯賃金は多くなる。

最も生涯賃金の推計値が多くなった、大企業勤務で65歳で退職、男性労働者の賃金水準で推計した場合において、正規雇用者で2人の子を出産後に産休・育休を利用し、フルタイムで復職したケース(A-A)の生涯賃金は3億3,081万円となり、先の企業規模を考慮せず60歳で退職、女性労働者の賃金水準で推計した場合の値(A-Aは2億3,092万円)を約1億円上回る。また、この条件の場合、時短を利用したとしても生涯賃金は3億円を超える。近年、共働き世帯が増える中で夫婦ともに高収入のパワーカップル世帯が少数ながら増加傾向にあるが、パワーカップルの妻はこの水準を超えるものと見られる。

5――おわりに

5――おわりに~多様な働き方と子育て支援策の充実は次世代育成と経済成長の鍵

本稿では、近年の女性の就労状況を確認した後、雇用形態や育児休業制度・短時間勤務制度の利用状況の違いを考慮しながら、大卒女性の生涯賃金を最新の統計に基づいて推計した。

女性の就労状況については、かつて「М字カーブ」の存在が課題であったが、現在ではほぼ解消されている。一方で、依然として年齢とともに非正規雇用者の割合が増加する傾向があり、25~34歳では正規雇用者が多いが、35~44歳では逆転し、65歳以上では非正規雇用者が8割を超える。これは、2013年に「女性の活躍」が掲げられて以降、若年層を中心に正規雇用で働く女性が増えるとともに、高年齢層の就業活発化が大きく影響していると考えられる。

なお、М字カーブの解消の背景には、結婚や出産前後の女性の就業継続率の上昇がある。現在では、第1子出産前後の妻の就業率は約7割に達し、育休を利用して就業を継続した割合も過半数を超えている。さらに、正規職員だけでなく、パート・派遣においても就業継続率は上昇しており、これまで約2割と低水準であったが、現在では約4割にまで上昇している。これには、法改正による育児休業制度の拡充が大きく影響している。

また、大学卒の女性の生涯賃金を推計したところ、同一企業で60歳まで働いた場合、2億5,183万円となった。また、2人の子どもを出産し、育児休業を1年取得した後にフルタイムで復職した場合は2億3,092万円であり、復職後に時短勤務を利用したケースでも2億円を超えた。一方、出産を機に退職し再就職した場合は生涯賃金が大幅に減少し、7,535万円となった。この差は本人や家庭だけでなく、個人消費や日本経済にも多大な影響を及ぼす。また、女性が出産後も働き続けられる環境の整備は、企業にとって人材確保やコスト削減にも寄与する重要な取り組みと言える。

なお、大企業に勤め、65歳で退職した場合は生涯賃金がさらに増加し、2人の子どもを持ち、フルタイムで復職したケースでは3億3,081万円となった。近年、共働き世帯の増加とともに高収入世帯も増えているが、パワーカップルの妻はこの水準を超えるものと見られる。

独身の若者のライフコースに対する希望を見ると、近年、男女ともに「両立コース」が増えており、最多を占めるようになっている(図16)。この背景には、将来の経済不安の高まりというネガティブな要因が影響している可能性もあるが、「女性の社会進出」や「女性の活躍推進」といったポジティブな要因が大きく寄与していると考える。

また、未婚化は進行しているものの、18~34歳の独身者の8割以上が結婚を希望しており、結婚の意思がある場合の希望する子ども数は平均して約2人程度である(国立社会保障・人口問題研究所「第16回出生動向基本調査(2021年)」によると、男性1.82人、女性1.79人)。
「女性の活躍推進」以降のこの10年余りの間で、仕事と家庭の両立環境は大きく前進した。政府の掲げる目標の達成に向けて、引き続き環境整備が進むことが期待される。将来を担う世代が希望通りに働きながら子育てを実現できるようになれば、少子化の抑制につながり、日本経済のさらなる発展も期待できる。多様な働き方の実現や子育て支援策の充実に向けた取り組みは、次世代の育成と経済成長を支える重要な課題と言える。

生活研究部   上席研究員

久我 尚子(くが なおこ)

研究領域:暮らし

研究・専門分野
消費者行動、心理統計、マーケティング

経歴

プロフィール
【職歴】
 2001年 株式会社エヌ・ティ・ティ・ドコモ入社
 2007年 独立行政法人日本学術振興会特別研究員(統計科学)採用
 2010年 ニッセイ基礎研究所 生活研究部門
 2021年7月より現職

・内閣府「統計委員会」専門委員(2013年~2015年)
・総務省「速報性のある包括的な消費関連指標の在り方に関する研究会」委員(2016~2017年)
・東京都「東京都監理団体経営目標評価制度に係る評価委員会」委員(2017年~2021年)
・東京都「東京都立図書館協議会」委員(2019年~2023年)
・総務省「統計委員会」臨時委員(2019年~2023年)
・経済産業省「産業構造審議会」臨時委員(2022年~)
・総務省「統計委員会」委員(2023年~)

【加入団体等】
 日本マーケティング・サイエンス学会、日本消費者行動研究学会、
 生命保険経営学会、日本行動計量学会、Psychometric Society

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