グローバル株式市場動向(2024年8月)-主要国の金融政策が注目される

2024年09月24日

(原田 哲志) 株式

1――グローバル株式市場は一時急落

2024年8月、グローバル株式市場は上旬には米国の景気後退懸念や日本での利上げによる株価急落から一時は世界的な株安となったが、その後はインフレ収束や米国での利下げ期待から落ち着きを取り戻し月間では上昇となった。代表的な世界株指数(含む新興国)であるMSCI All Country World Index (MSCI ACWI)の騰落率1は2024年8月 +2.4%、過去1年(2023年9月-2024年8月)では+21.5%となっている(図表1)。

先進国と新興国を比べると、先進国・新興国ともに上昇、先進国がより上昇率が高かった。先進国(MSCI  World Index)が+2.5%、新興国(MSCI Emerging Markets Index)が+1.4%となった(図表2)。
グロース・バリューでは、グロース指数(MSCI ACWI Growth Index)が+2.3%、バリュー指数(MSCI ACWI Value Index)が+2.5%と若干のバリュー優位となった(図表3)。企業規模別では、大型株(MSCI ACWI Large Cap Index)が+2.4%、中型株(MSCI ACWI Mid Cap Index)が+2.4%、小型株(MSCI ACWI Small Cap Index)が+0.5%と大型株優位となった(図表4)。
 
1 以下、特に断りのない限り騰落率は米ドル建、配当を除いた指数値の変化率を示す。

2――国・業種別の動向

2――国・業種別の動向

国別に見ても多くの国が上昇した(図表5)。主要国について見ると、米国(+2.3%)、中国(+1.0%)、ドイツ(+4.7%) 、日本(+0.1%)となった。アルゼンチン(+15.6%)、フィリピン(+9.9%)、マレーシア(+9.7%)の騰落率が高かった。一方で、トルコ(▲10.0%)、メキシコ(▲5.4%)、韓国(▲2.8%) の騰落率が低かった。

米国は月初、雇用統計の伸びが鈍化したことから景気後退懸念により下落したがその後は消費者物価指数の落ち着きから回復に向かい月間では上昇となった。

日本は上旬に市場の予想を上回る日銀の早期の利上げと今後の引き締め姿勢や米国の景気後退懸念から大幅に下落したものの、その後は米国の株高などから落ち着きを取り戻し回復し月間ではほぼ横ばいとなった。中国は消費・投資の低迷が続く中、政策金利の引き下げなど景気支援策への期待から小幅上昇した。

アルゼンチンではハビエル・ミレイ大統領が推進する経済再生・安定化政策により、ハイパーインフレにあった同国の消費者物価指数が7月は前月比+4%に減速したことから、物価・経済の安定化が期待され株式市場は上昇した。

トルコでは中東情勢の緊迫化やトルコリラの下落によるインフレ再燃が懸念されたことから株式市場は下落した。
業種別に見ると、 ヘルスケア機器・サービス(+7.4%)、食品・生活必需品小売り(+5.8%)、医薬品・バイオテクノロジー(+5.6%)の騰落率が高かった。一方で、 自動車・自動車部品(▲2.5%)、エネルギー(▲1.0%)、小売(▲0.7%) の騰落率が低かった(図表6)。

8月14日、世界保健機関(WHO)はアフリカのコンゴ民主共和国でのエムポックス(サル痘)の感染拡大を受け、緊急事態宣言を行った2。これにより、ワクチン生産などに関係するヘルスケア、医薬品・バイオテクノロジー関連株が上昇した。
 
2 日本経済新聞、「WHO緊急事態のエムポックス、子どもや女性の感染拡大」、2024年8月17日

3――世界の主要企業の株価動向

3――世界の主要企業の株価動向

世界の主要な企業の株価は多くの銘柄で上昇した (図表7)。時価総額上位30位までの企業では、イーライリリー(+21.7%)、エヌビディア(+15.1%)、ブロードコム(+13.4%)のリターンが高かった。一方で、サムスン電子(▲5.1%)、アルファベット(▲4.1%)、テスラ(▲3.8%) のリターンが低かった。イーライリリーは8月8日に4-6月期決算を公表、同社の肥満症治療薬の好調な売れ行きが好感された。一方で、米景気後退懸念を受けた世界的なリスク回避の動きによって韓国株式市場が下落した中でサムスン電子も下落した。

4――今後の見通しと注目されるテーマ

4――今後の見通しと注目されるテーマ

グローバル株式市場は米雇用統計の軟化や日銀の早期の利上げにより一時大きく下落したものの、その後は米消費者物価指数の落ち着きなどから回復に向かった。インフレ収束が見込まれる中、欧米中央銀行は利下げに動いており動向が注目される。

米国連邦準備制度理事会(FRB)は、インフレ率は依然としてやや高い水準だが目標の2%に向けて前進しているとインフレ抑制の進展を強調した。こうした中、雇用情勢の軟化をふまえて積極的な利下げに転じた。欧州中央銀行(ECB)は9月12日にはインフレと経済成長の鈍化をふまえて0.25%の利下げを行った。ただし、金利水準はデータ依存であることを強調し、将来の金利の道筋について慎重な姿勢を示している。一方で、日銀は7月31日金融政策決定会合で政策金利の0.25%引き上げを公表、その後日本の株式市場は大幅な下落となった。主要国中央銀行の金融政策や市場との対話が影響を与える中、グローバル株式市場の動向に引き続き注視したい。
 
 

(お願い)本誌記載のデータは各種の情報源から入手・加工したものであり、その正確性と安全性を保証するものではありません。また、本誌は情報提供が目的であり、記載の意見や予測は、いかなる契約の締結や解約を勧誘するものではありません。

金融研究部   准主任研究員・サステナビリティ投資推進室兼任

原田 哲志(はらだ さとし)

研究領域:医療・介護・ヘルスケア

研究・専門分野
資産運用、ESG

経歴

【職歴】
2008年 大和証券SMBC(現大和証券)入社
     大和証券投資信託委託株式会社、株式会社大和ファンド・コンサルティングを経て
2019年 ニッセイ基礎研究所(現職)

【加入団体等】
 ・公益社団法人 日本証券アナリスト協会 検定会員
 ・修士(工学)

レポートについてお問い合わせ
(取材・講演依頼)