気候変動問題のコスト意識-日本の人々の意識の特徴はどこにあるか?

2024年09月24日

(篠原 拓也) 保険計理

2|アメリカでは、4分の1の人々が地球温暖化対策に反対する企業に罰を与えた
次に、アメリカの人々の意識について、イェールプログラムとジョージ・メイソン大学が2024年春に公表した"Climate Change in the American Mind"のサーベイ結果を見ていく。

この調査は、2024年4月25~5月4日に18歳以上の1031人のアメリカの人々を対象にウェブベースの環境で行われた。

調査結果によると、人々の70%が地球温暖化は起こっていると回答した。起こっていないとの回答は13%だった。また、67%が地球温暖化問題を個人として重要だと回答した。個人としては重要でないとの回答は33%だった。

消費者行動の点では、32%が過去12か月に少なくとも1回、地球温暖化対策に取り組む企業に報酬を与えた。また、26%が過去12か月に少なくとも1回、地球温暖化対策に反対する企業に罰を与えた、と回答している。アメリカでは、気候変動問題への意識が消費者の行動の形で、企業に投げかけられる動きが出ている様子がうかがわれる。
3|日本では他人の気候関係の行動を過小評価する傾向がある
最後に、イギリスのオックスフォード大学の研究者らが運営するアワー・ワールド・イン・データでの気候変動関係のデータを見てみよう。このデータは、世界のさまざまなサーベイの結果をまとめたデータ集となっている。

気候変動問題に関する人々の意識については、気候変動問題に取り組むための資金として収入の1%を拠出するか、という問いに対する各国の人々の回答がある。これは、"Globally representative evidence on the actual and perceived support for climate action"(Peter Andre, Teodora Boneva, Felix Chopra & Armin Falk, accepted 4 Jan 2024)と題する論文のデータをまとめたものだ。

自分が収入の1%を拠出すると回答した人の割合を見ると、日本は48.8%で、アメリカやイギリスと同程度の水準となっている。一方、他人が収入の1%を拠出すると回答した人の割合を見ると、日本は24.4%で、主な国と比べて低い水準となっている。日本では、自分が拠出したとしても、他人は拠出しないのではないかと考える人が多い様子がうかがわれる。

4――おわりに (私見)

4――おわりに (私見)

本稿では、気候変動問題に対する人々の意識について、各種サーベイを通じて見ていった。特に、日本の人々の意識の特徴として、次のことがうかがわれる結果となった。情報の不足が緩和する一方で、経済的なコストへの意識が高まっていること。気候変動問題に関して環境に配慮した商品・サービスの購⼊意向を持っていても、実際の購入場面では、経済面のコストが意識されること。多くの人が環境保護の重要性を認識しつつも、経済成長を疎かにはできないとして逡巡していると見られること。気候変動問題に取り組むための資金を自分が拠出したとしても、他人は拠出しないのではないかと考える人が多いこと。このうち、他人の不行動に関する懸念の意識については、他人に目がいきがちな日本の人々ならではの特徴があらわれているものと考えられる。

行動経済学でよく言われる「ナッジ」(行動をそっと後押しすること)を、日本の人々の気候変動問題への取り組みに用いようとする場合、「あなただけではなく、他の人も行動しますよ」ということを明確にして保証することができれば、多くの人が行動をとりやすくなるだろう。気候政策において、個人の行動の変化を促す際には、参考になるかもしれない。

なお、今回参照していったようなサーベイは、調査の対象、時期、形式、設問などによって結果が変化することがある。このため、1つの調査結果だけで確定的なことを論じることは適切ではないと考えられる点に注意が必要だろう。

今後も、世界中で気候変動問題に関するさまざまなサーベイが行われるものとみられる。引き続き、それらの結果を注視していくこととしたい。

(参考資料)
 
「気候変動に関する世論調査」(内閣府, 2023年11月)
 
「気候変動と商品・サービスの購⼊に関する⽣活者意識調査(CSVサーベイ2024年)」(株式会社メンバーズ, 2024年)
 
「第7回「世界価値観調査」レポート」(電通総研, 同志社大学, 2021年3月)
 
「今さら解説-気候感度って何? ~定義からWCRP評価論文、パターン効果まで~」渡部雅浩(東京大学大気海洋研究所, 2021年4月27日)
 
"Climate Change – Special Eurobarometer 538"(European Commission, July 2023)
 
"Climate Change in the American Mind"(Yale Preogram on Climate Change Communication, George Mason University Center for Climate Change Communication, Spring 2024)
 
"Willingness Climate Action"(Our world in Data)
 
"Globally representative evidence on the actual and perceived support for climate action"(Peter Andre, Teodora Boneva, Felix Chopra & Armin Falk, accepted 4 Jan 2024)
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