2023年度 生命保険会社決算の概要(全社集計確報と、トピックス追加版)

2024年07月30日

(安井 義浩) 保険計理

1――保険業績(全社)

2023年度の生命保険会社の業績を概観する。

生命保険協会加盟会社は、2024年4月1日現在41社あり、6月中に全ての会社の2023年度決算の発表があった。これらを、伝統的生保(17社)、外資系生保(12社)、損保系生保(4社)、異業種系生保等(7社)、かんぽ生命に分類し、業績を概観した(図表-1)。
41社合計では、年換算保険料ベースで新契約は15.8%増加しており、個々の会社や商品にもよるが、全体としては、新型コロナ前の2019年度業績の規模を昨年度上回ったのに続き、さらに増加したが、その前の2018年度業績が好調だったため、まだそこまでは回復していない。保有契約年換算保険料は1.4%増加となった。
 
「伝統的生保」の新契約年換算保険料は、19.2%増加(前年度 19.3%増加)となった。保有契約年換算保険料は2.5%増加(前年度0.3%増加)。以下同様に保険料ベースでの増減を示す。

「外資系生保」は、新契約が6.0%増加(前年度 10.0%増加)し、保有契約は2.4%増加(前年度 ▲0.2%減少)した。

「損保系生保」は、新契約が1.0%増加(前年度 21.8%増加)で、保有契約は3.1%増加(前年度 1.5%増加)となった。

「異業種系生保等」は新契約が17.2%増加(前年度 13.8%増加)、保有契約は5.5%増加(前年度 4.5%増加)となった。
次に、新契約年換算保険料の個人保険、個人年金保険および第三分野の内訳を見たものが図表-2である。40社(かんぽ生命を除く)合計で、個人保険は対前年3.6%増加した(前年度 15.0%増加)。また個人年金は、56.7%増加(前年度24.4%増加)となった。各社が注力している分野にもよるが、全体としては、コロナ下の落ち込みから回復し、特に金融機関窓販による外貨建商品や円建てでも一時払個人年金商品などの貯蓄性商品が好調であったようだ。第三分野は▲2.6%減少となった。
 
基礎利益(再び図表-1)は、全体では対前年度41.5%と大幅に増加した。主に2022年度に急増していた新型コロナウィルス関連の給付金支払いが減少したことが増加の要因である。基礎利益が増加した会社数は、41社のうち36社にのぼる。

2――大手中堅9社の収支状況

2――大手中堅9社の収支状況

以下で、特に収支上のシェアが大きい大手中堅9社合計の収支状況をみていくことにする。

なお、大手グループにおいては、複数の保険会社があって、保険販売面で医療保険・金融機関窓販などに役割の分担がなされている面があるので、収支の方もグループ連結でみるべきと考えられるが、今のところ基礎利益など収支面のほとんどの項目においては、グループ内の保険子会社の占める割合が小さいことや、もとからある9社単体の開示情報が比較的多いこと、からここでは従来通りそれぞれ単体9社でみることにしている。
1|資産運用環境と有価証券含み益
2023年度までの資産運用環境は図表-3の通りである。
国内株価については、日本経済のデフレからの脱却期待や、円安を背景にした国内企業が好決算であったことから、日経平均株価が前年度末28,041円から、年度末40,369円と、歴史歴な大幅上昇となった。

国内金利については、マイナス金利の解除など日銀の金融政策が修正される中、代表的な10年国債利回りでみると、2024.3月末には0.750%となり、依然として低金利とはいえ、徐々に戻ってきた。

為替については、欧米の金融引締め政策の中で、内外金利差が拡大したことなどにより、対米ドルでは2024.3月末には151.41円/ドル、対ユーロでは163.24円/ユーロと、引き続き円安、ドル高・ユーロ高の方向に進んだ。他の通貨では、従来から外貨建保険で比較的よく使われる豪ドルについても円安の方向に動いてきた。
こうした状況を反映して、国内大手中堅9社の有価証券含み益は、図表-4に示す通りとなった。国内債券の含み益が▲5.4兆円減少、国内株式の含み益が8.3兆円増加、外国証券含み益は債券・株式とも増加し合計では3.3兆円増加した。その結果、有価証券合計では6.6兆円増加と大幅な増加となった。
 
多くの生保は、従来、国内債券中心の資産運用をしてきたため、国内金利が上昇する中で、9社すべてが含み損を抱える状況となっている。また外国債券も金利上昇の影響により価格が下落しているところではあるが、円安がそれを緩和する状況となっており、総合すると含み益が増加した、2022年度あたりから、米国では債券含み損を抱えた銀行の破綻も報道されており、その後それほど大きな悪影響はないようだが、引き続きわが国においても金融機関の財務状況への悪影響が懸念される。
 
生命保険会社の場合は、資産だけでみると含み損ではあっても、対応する長期負債(責任準備金)もそれ以上に負担が軽くなっているため、全体としては財務状況に問題はないと思われる。(そのあたりの対応状況をきちんと評価しようとするのが、経済価値ベースのソルベンシー指標である。)
2基礎利益は大きく増加
そうした中、2023年度の基礎利益は20,802億円、対前年度35.0%増加となった(図表-5)。
 
うち利差益は7,269億円、4.0%増加となった。

危険差益・費差益等からなる保険関係収支は13,533億円、60.7%の大幅増加となった。
 
3利源とも一定程度公表している7社のみの合計金額を見た(一部推定)ものが図表-6である。これで保険関係収支のうち危険差益と費差益の内訳がわかる。

危険差益は、63.7%増加(前年度は▲45.7%減少)となった。2023年度の増加は、2022年度の新型コロナによる給付金支払いがなくなったことによるもので、これで平年ベースに戻ったと考えられる。
平年ベースの一般的な動向としては、保有契約の減少傾向や、2017年の死亡表の改定(保険料の値下げ)の影響は、危険差益の減少として現れるものと考えられる。一方、第三分野商品(医療保険)についても、新契約や保有契約の増加も落ち着いてきており、販売当初の選択効果が次第に薄れてくるのではないか(=危険差益の減少)とも考えられるが、詳細は開示されておらず推測の域をでない。

費差益については、2023年度にはわずかに増加したものの、かつての規模や危険差・利差の水準からすると、費差はほぼないといっていい水準である。費差益は、簡単に言えば、収入保険料のうち事業費を賄うための付加保険料と、実際の事業費支出の差である。付加保険料については、過去予定利率の引下げ、すなわち保険料の値上げを緩和するために逆にセットで引き下げられた会社が多く、その影響で費差益が減少傾向にあると考えられる。

保険研究部   主任研究員 年金総合リサーチセンター・気候変動リサーチセンター兼任

安井 義浩(やすい よしひろ)

研究領域:保険

研究・専門分野
保険会計・計理、共済計理人・コンサルティング業務

経歴

【職歴】
 1987年 日本生命保険相互会社入社
 ・主計部、財務企画部、調査部、ニッセイ同和損害保険(現 あいおいニッセイ同和損害保険)(2007年‐2010年)を経て
 2012年 ニッセイ基礎研究所

【加入団体等】
 ・日本アクチュアリー会 正会員
 ・日本証券アナリスト協会 検定会員

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