インバウンドが本格的に再開する中で、本稿では政府統計を用いて、2024年1-3月までのインバウンド消費の動向について捉えた。その結果、訪日外客数はコロナ禍前と比べて1割弱、消費額は1.5倍に増加しており、円安による割安感から宿泊日数が伸び、日本国内の物価高の影響も相まって、1人当たりの消費額が増えている様子が見てとれた。なお、2024年1月は能登半島地震が発生したが、訪日外客数はコロナ禍前と同程度を維持しており、インバウンドへの影響は全体で見れば軽微であったようだ。
国籍・地域別には、訪日中国人観光客は回復途上にあり、外客数は韓国や台湾に次いで3位にとどまっていたが、消費額で見れば既に首位を占め、全体の約2割を占めていた。また、訪日中国人観光客はコロナ禍前の約6割まで回復しており、特に2023年10-12月から2024年1-3月にかけて改善傾向が強まっていた。また、引き続き円安による日本旅行に対する割安感から、欧米からの旅行客も堅調に増えており、コロナ禍前と比べて一人当たり旅行支出額は2倍前後に増えていた。
また、消費の内訳を見ると、足元ではコト消費が7割、モノ消費が3割を占めるが、モノ消費に旺盛な訪日中国人観光客がコロナ禍前と同程度に回復すれば、モノ消費がさらに増える可能性がある(コロナ禍前の2019年は約35%)。
一方で、今後、リピーターも増え、滞在日数が伸長する中では、モノを買うというよりも、日本ならではの体験をしたいというコト消費の需要が強まっていくと見られる。つまり、宿泊や飲食、娯楽サービスなどのコト消費の内訳を占める様々なサービスに対するバリエーションや質の高さなどの付加価値が一層求められるようになるだろう。特に、娯楽サービス(現地ツアーやテーマパーク、舞台・音楽鑑賞、スポーツ観戦、美術館、温泉やエステ、マッサージ、医療費など)は、現在のところ内訳の6%程度に過ぎないが、今後の伸びしろが期待される。特に日本では他国と比べて、ナイトタイムエコノミーに該当するサービスや富裕層向けの質の高いサービスが不足している
6。これらの領域については伸長の余地があり、新たなサービス需要の開拓は、成熟しつつある日本人の消費市場の更なる発展にもつながる。
サービス業では特に人手不足が深刻だが、労働生産性には改善の余地があり、効率的な労働投入(宿泊業などの繁閑の差が激しい業種における地域全体での雇用シェアや物品の共同購入など)や業務の効率化(デジタル化、無人化など)に加えて、付加価値の向上(デジタル化でサービスが同質化する中で文化芸術や地域文化の伝承などを根幹に据えたサービス提供など)などが指摘されている
7。
少子高齢化による労働力不足という日本の構造的な課題によって、供給不足による機会損失も生じている。多方面から生産性向上を図る施策が進められることで、インバウンドのみならず、国内の個人消費の底上げも期待される。
6 国土交通省「ナイトタイムエコノミー推進に向けたナレッジ集」(平成31年3月)や株式会社日本総合研究所「平成30年商取引・サービスの適正化に係る事業(日本版ブロードウェイ構想に関する基盤調査)報告書」など。
7 経済産業省「サービス産業×生産性研究会」報告書(2022年3月)