コラム

エフロンのサイコロ-勝つためにどのサイコロを選ぶべきか?

2024年07月02日

(篠原 拓也) 保険計理

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確率の問題では、サイコロがよく使われる。もっともポピュラーなサイコロは、立方体(正六面体)のもので、6つの面に1から6までの数字が1つずつ割り当てられているものだろう。どの数字の出る確率も等しい場合、公正なサイコロと呼ばれる。
 
少し変わったサイコロとして、正四面体、正八面体、正十二面体、正二十面体を使ったものがある。玩具店のサイコロを置いているコーナーなどで、眼にすることができる。
 
サイコロは、ゲームやすごろくなどさまざまな場面で用いられる。単に、サイコロだけを使って遊ぶこともできる。2人の人がそれぞれ1つのサイコロを持ち、それを同時に振って、大きい数が出た人が勝ち(同じ数の場合は2人とももう一度振る)、というシンプルな遊び方だ。
 
2人の持つサイコロが、両方とも公正なサイコロであれば、相手よりも大きい数が出る確率と、小さい数が出る確率は同じだから、勝つか負けるかは五分五分ということになる。
 
しかし、立方体の公正なサイコロでも、6つの面の数字を変えると、勝敗の確率は0.5とは限らなくなる。今回は、そうした変り種のサイコロのなかで、「エフロンのサイコロ」という有名な話を見ていこう。

◇ エフロンのサイコロ - 4つの特殊なサイコロを使う

エフロンのサイコロは、アメリカの著名な統計学者であるブラッドリー・エフロン氏が考案したゲームだ。ゲームの中では、4つの特殊なサイコロが用いられる。
 

(エフロンのサイコロ)
2人で立方体のサイコロを1つずつ同時に振って、大きい数が出た人が勝ち、というゲームを考えます。
サイコロは次の4つの特殊なものの中から、2人が1つずつ選ぶこととします。ただし、2人が同じサイコロを選ぶことはできません。どのサイコロも、各面が出る確率は同じとします。
(サイコロA) 0の面が2つ、4の面が4つ
(サイコロB) 3の面が6つ (つまりすべての面が3)
(サイコロC) 2の面が4つ、6の面が2つ
(サイコロD) 1の面が3つ、5の面が3つ
勝つ確率を高めるためには、どのサイコロを選べばよいでしょうか?

いきなり4つの変り種のサイコロが出てきて、ややわかりづらいかもしれない。4つのサイコロで出る数はすべて異なることに注意しておこう。そのため、同じ数が出て引き分けとなることはない。
 
手始めに、それぞれのサイコロを1回振ったときに出る数の平均を計算してみる。サイコロAは、16/6。Bは18/6。Cは20/6。Dは18/6となる。比較しやすいように、約分をせずに表示してみた。
 
平均を見ると、サイコロCがやや大きい数が出やすいということになる。ただ、相手と自分の出た数の比較で勝負がつくことを考えると、平均的に大きい数が出ることはそれほど重要とは言えないかもしれない。

◇ サイコロ同士を対決させてみると…

それでは、サイコロAからDの中から、2つを選んで、サイコロ同士の対決をさせてみよう。
 
(サイコロAとサイコロBの対決)
Bは3しか出ない。Aで4が出るとAの勝ち、0が出るとBの勝ちとなる。AがBに勝つ確率は、Aで4の出る確率、つまり4/6となる。
 
(サイコロBとサイコロCの対決)
Bは3しか出ない。Cで2が出るとBの勝ち、6が出るとCの勝ちとなる。BがCに勝つ確率は、Cで2の出る確率、つまり4/6となる。
 
(サイコロCとサイコロDの対決)
Cで6が出れば、Dで何が出ようとCの勝ち。Cで2が出た場合は、Dで1が出ればCの勝ちとなる。それ以外はDの勝ちだ。CがDに勝つ確率は、Cで6の出る確率2/6と、Cで2が出てDで1が出る確率2/6(=4/6×3/6)の合計で、4/6となる。
 
ここまでをまとめると、AはBに4/6の確率で勝ち、BはCに4/6の確率で勝ち、CはDに4/6の確率で勝つということになる。どうやら、Aが最も勝ちやすいサイコロという感じがしてくる。だが、ここであっさり検討を終えてはいけない。念のために、DとAを対決させてみよう。
 
(サイコロDとサイコロAの対決)
Dで5が出れば、Aで何が出ようとDの勝ち。Dで1が出た場合は、Aで0が出ればDの勝ちとなる。それ以外はAの勝ちだ。DがAに勝つ確率は、Dで5の出る確率3/6と、Dで1が出てAで0が出る確率1/6(=3/6×2/6)の合計で、4/6となる。
 
なんと、DはAに4/6の確率で勝つという計算結果になった。4つのサイコロの勝ち負けは、循環してしまっている。
 
通常、4つの実数a、b、c、dの大小関係を考える場合、a>b、b>c、c>dならば、a>dとなる。これは、「推移律」と呼ばれる。この推移律が、サイコロA~Dの勝ち負けの確率には成り立っていない。つまり、サイコロA~Dの勝ち負けの確率は「非推移的」ということになる。
 
さて、こうなると、残りの対決も見てみる必要が出てくる。
 
(サイコロCとサイコロAの対決)
Cで6が出れば、Aで何が出ようとCの勝ち。Cで2が出た場合は、Aで0が出ればDの勝ちとなる。それ以外はAの勝ちだ。CがAに勝つ確率は、Cで6の出る確率2/6と、Cで2が出てAで0が出る確率8/36(=4/6×2/6)の合計で、20/36(≒3.33/6)となる。
 
(サイコロBとサイコロDの対決)
Bは3しか出ない。Dで5が出るとDの勝ち、1が出るとBの勝ちとなる。BがDに勝つ確率は、Dで1の出る確率、つまり3/6となる。BとDの勝ち負けは、五分五分だ。
 
対決の結果をまとめると、次の表のようになる。縦軸のサイコロが、横軸のサイコロに勝つ確率だ。

◇ 勝つためにどのサイコロを選ぶべきか?

この表を見ると、どのサイコロにも、勝ちやすい相手や、勝ちにくい相手があることがわかる。
 
もし、2人がサイコロを選ぶのではなく、サイコロがランダムに割り当てられるのであれば、サイコロCがやや勝ちやすいサイコロと言えるだろう。Cは、AとDに対して勝ちやすいからだ。
 
だが、ゲームの条件は、2人がサイコロを選ぶこととされている。こうなると、相手がどのサイコロを選んだかに応じて、それに勝ちやすいサイコロを選ぶ、というのが、勝つための選択となる。
 
ただ、この選択は、相手にとっても同じだ。相手も、自分が選んだサイコロを見て、それに勝ちやすいサイコロを選ぼうとするだろう。
 
つまり、ゲームは最初にサイコロを選ぶ段階で、「にらみ合い」の膠着状態に陥る。
 
この膠着状態を打開するにはどうすればよいか。サイコロを選ぶ順番をじゃんけんで決めるか。コインを投げて決めるか。いろいろ考えられるだろう。
 
だが、ここで、サイコロを振って決めるのは考えものだ。通常の、6つの面に1から6までの数字が1つずつ割り当てられているサイコロを振るのでは面白みがない。かといって、サイコロA~Dの中から1つ選んで大きな数字の出た人が、後でサイコロを選択することにすると、そのサイコロ選びの順番をどうするかという問題に至る。際限のない膠着状態が待ち受けているかもしれない。
 
エフロンのサイコロのように、勝ち負けの確率が非推移的なサイコロの例は、他にもある。もし、何かのサイコロのゲームを行うことになったとしたら、たかがサイコロ遊びとあなどらずに、よく確率の検討をすべきと思われるが、いかがだろうか。

(参考文献)
 
「確率パズルの迷宮」岩沢宏和(日本評論社, 2014年)
 
「非推移的サイコロのはなし」盧尚,来嶋秀治(九州大学大学院システム情報科学府, コンピュテーション研究部会, 2022年3月6日)
 
"Intransitive dice"(Wikipedia)
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