2023年度生命保険会社決算の概要(速報)

2024年07月08日

(安井 義浩) 保険計理

5|ソルベンシー・マージン比率~高水準を維持、一部の会社のESRも開示され、大きな変動なし
健全性の指標であるソルベンシー・マージン比率(9社合計ベース)をみたものが図表-10である。ソルベンシー・マージン総額と保有リスクとの関係を見るため、形式的に9社計で算出した比率は前年度の955.0%から934.4%と下がってはいるが、引き続き高水準にある。

2023年度は、また当期利益の使途でもふれたように、オンバランス自己資本(貸借対照表の資本、危険準備金、価格変動準備金などの合計)が増加したが、それに加えて、その他有価証券の含み益が大きく増加したことで、マージン(=分子)は増加した。

一方、リスク(=分母)の方では、資産運用リスクが増加している(さらなる詳細は不明だが、有価証券の時価上昇によるリスク対象資産額の増加によるものか)。こうしてマージンとリスクがともに増加して、ソルベンシー・マージン比率は、ほぼ横ばいで高水準を維持している。

これまで現行方式によるソルベンシー・マージン比率の内訳をみることにより、保有リスクとそれに対する準備金等の対応状況は、ある程度窺い知ることができていたが、前回2022年度の決算発表から、経済価値ベースのソルベンシー指標(ESR :Economic Solvency Ratio)を、大手4社グループなど一部の会社が開示し始めている。

これは新たな算出方法(例えば資産、負債とも経済価値、いわば時価ベースで評価するなど)による、会社のリスク量に対する自己資本の率である。開示された大手社の数値はおよそ200%~250%程度で前年度から大きな変動はみられない。全社が開示するのは2025年度とされている。

3――かんぽ生命の状況

3――かんぽ生命の状況

かんぽ生命は他の国内大手の生命保険会社とは歴史的な経緯も異なり、規模も大きいので、別途概観しておく。
個人保険・個人年金保険の業績動向を見たものが図表-11である。新契約年換算保険料は、77.4%の増加となった。また、保有契約年換算保険料の減少率は▲8.1%と、近年、国内大手中堅9社計より減少幅が大きい傾向がある。
 
基礎利益の状況は次のとおりである(図表-12)。
利差益については、平均予定利率、基礎利回りともにわずかに低下しており、利差益は918億円と微減となった。一方、危険差と費差の合計は増加しており、これらを合計した基礎利益は2,240億円と増加した。

かんぽ生命の資産運用は、有価証券については、国債・地方債・社債がほとんどを占めており、中でも国債の構成比が有価証券全体の76%となっている(前年度は74%)。株式への投資は、もともとほぼゼロであったものが、近年構成比を高めているが、まだ小さい。こうした点は、他の伝統的な大手中堅生保とは異なっており、安全性を重視した運用ポートフォリオとなっている(一方、9社計では、有価証券中の国債の構成比は近年40%程度)。

そうしたこともあり、基礎利回りが低い反面、ソルベンシー・マージン比率については、2021年度は1,016.80%と若干上昇し、高水準である(前年度は1,003.7%)。こうした高水準は、リスク性資産の構成割合が従来から低いことに加え、内部留保が厚いことに起因する。例えば、民営化前の旧簡易保険契約(貯金・簡易生命保険管理機構からかんぽ生命が受再している形態)を含め約1.7兆円の危険準備金を保有している。かんぽ生命を除く民間生保約40社の合計額が、ここ数年増加してきてはいても6.0兆円程度であることからも、水準の厚さがうかがえる。また逆ざやに備えるための追加責任準備金が累計で4.9兆円と、引き続き厚い水準にある。

保険研究部   主任研究員 年金総合リサーチセンター・気候変動リサーチセンター兼任

安井 義浩(やすい よしひろ)

研究領域:保険

研究・専門分野
保険会計・計理、共済計理人・コンサルティング業務

経歴

【職歴】
 1987年 日本生命保険相互会社入社
 ・主計部、財務企画部、調査部、ニッセイ同和損害保険(現 あいおいニッセイ同和損害保険)(2007年‐2010年)を経て
 2012年 ニッセイ基礎研究所

【加入団体等】
 ・日本アクチュアリー会 正会員
 ・日本証券アナリスト協会 検定会員

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