定年後の女性の働き方~よりポジティブな選択の機会へ

2024年06月11日

(坊 美生子) 高齢化問題(全般)

2-4│定年後の就業形態
次に、定年後の就業形態について、50代後半男女が現時点で抱いている希望と、定年後の男女の実態を比較したものが図表5である。まず男性についてみると、「50代後半男性」の希望では、最も多いのは「フルタイムだが残業なし」の4割、次いで「残業等も含め、定年前と同じフルタイム勤務」が3割強、「短時間勤務や週4日以内等の働き方」が約2割となっていたが、「定年後男性」の実態をみると、「残業等も含め、定年前と同じフルタイム勤務」が希望よりも多い約4割、「短時間勤務や週4日以内等の働き方」は希望より少ない約1割だった。残業の有無に限らず、フルタイムで働く人は合わせて約9割に上った。

これに対して女性は、「50代後半女性」の希望では、最も多いのは「フルタイムだが残業なし」と「短時間勤務や週4日以内等の働き方」が各3割強で肩を並べ、「残業等も含め、定年前と同じフルタイム勤務」が約3割だった。しかし、定年後の実態をみると、「短時間勤務や週4日以内等の働き方」が約4割と50代後半の希望よりやや多く、「残業等も含め、定年前と同じフルタイム勤務」と「フルタイムだが残業なし」がいずれも約3割だった。残業の有無に限らず、フルタイムで働く人は合わせて約6割に上った。

男女の違いを見ると、女性の方が、圧倒的に「短時間勤務や週4日以内等の働き方」が多く、2-3|でみたように、パート・アルバイトの雇用形態が多いことと合致している。

なお、女性の方が短時間勤務や短日勤務が多い背景には、仕事への動機の違いが関係していると考えられる。同調査の別の設問で、定年後の男女に「定年まで仕事を辞めなかった理由」を尋ねると、「家族を養わなければならなかったから」と回答した人の割合が、定年後男性では66%に上ったのに対し、定年後女性では29.1%であり、男性の方が、家計責任が大きいことが分かる。因みに、定年後女性の「定年まで仕事を辞めなかった理由」の中で、最も多かったのは「社会とつながっていたかったから」だった。
2-5│定年後の勤務先の業種
次に、勤務先の業種について、50代後半と定年後の男女について確認し、違いがあるかを検討する。まず男性についてみると、「50代男性」では「製造業」が4割弱で最も多かった。「定年後男性」では、製造業が最多であることには変わりないが、割合はやや減少し、「卸売り・小売業」と「金融・保険業」の割合がやや増加していた。

次に女性についてみると、「50代後半女性」では、「金融・保険業」が最多の約2割、「医療・福祉」と「製造業」が2割弱、などとなっていた。「定年後女性」では「金融・保険業」の割合が半減し、代わりに「卸売り・小売業」が約2割で最多となった。50代後半で「金融・保険業」だった女性のうち、定年や定年前に退職する人が一定数いると考えられる。「医療・福祉」は定年後も割合が変わらなかった。
2-6│定年後の勤務先の職種
次に、勤務先での職種について、50代後半と定年後の男女について確認し、違いがあるかを検討する。男性の場合は、50代後半に比べて定年後は、「設計・品質管理・生産技術・研究開発・デザイン等」の割合が減少している。女性の場合は、50代後半に比べて、定年後は「営業等の事務」が▼8.1ポイント、▼9.3ポイントといずれも減少し、逆に「販売・接客サービス・カスタマーサポート」は+13.8ポイントと増加していた。つまり、定年前には営業事務や営業に就いていた女性の中で、定年後に新たに、カスタマーサポートのような仕事に就く人がいると考えられる。 
2-7│定年後の仕事内容の変化
50代後半の男女に対して、定年後も働く場合、現在と同じ分野の仕事を望んでいるかどうか、また定年後の男女に対して、実際に、定年前から仕事の分野に変化があったかどうかを尋ねた結果が、図表8である。

まず50代後半では、男女ともに定年後に「現在と同じ分野」の仕事を望む人が過半数を占めている。特に女性は6割と高い。一方、「現在と違う分野」の仕事を望む人は男女とも1割強に過ぎない。

しかし、定年後の実態を見ると、定年前と比べて仕事の分野に「変化がなかった」と回答したのは、男性が3割強、女性が5割弱で、男女いずれも、50代後半の希望より少ないと言える。仕事の内容に「変化があった」は、男性では4割弱、女性が3割弱となっている。

つまり、定年後の仕事の実態としては、本人の希望に反して、違う分野の仕事に従事する人が、一定程度いることが分かる。ただし、男女の違いを見ると、女性の方が、定年前と同じ分野の仕事をしている人が多い。
2-8│定年後の働き方に関するまとめ
これまでにみてきた内容をまとめると、女性の場合、50代後半まで正社員として長期勤続してきた人は、定年後も、同じ会社で働き続ける場合が多数派である。ただし所得水準は、契約社員に変わっても、パートに変わっても、定年前の正社員時代に比べれば低下する。この点は、男性でも女性でも変わらない。

ただし雇用形態でみると、男性と違って、定年後はパート・アルバイトとして働く人が半数近くを占め、定年前と同じ会社であってもパートに切り替えるか、別の会社にパートとして再就職する人が多いと見られる。パートになると、大抵、年間所得は200万円未満になるが、女性の場合、男性ほど家計責任が大きくないことが、働き方の選択に影響している可能性がある。むしろ、勤務日や勤務時間が減ることで、身体への負担が軽くなったり、趣味や介護など私生活との両立がしやすくなったりするため、積極的にパートを選択している人も多いだろう。

一方、仕事の内容は、変化する女性も多い。定年後も働く女性のうち約3割は、仕事の内容に、定年前から変化があったと回答している。50代後半で「定年後は違う仕事をしたい」と希望している女性は1割強しかいないため、希望に反して、定年前とは違う仕事をしている女性が多いと見られる。

実際に、定年後の女性が従事している職種を見ると、50代後半で就業者が多かった営業事務や営業は減り、代わりに、カスタマーサポートや接客サービスが増えている。定年後に、組織の中で役割が変わり、新たにこのような仕事に就いている女性もいると考えられる。

3――終わりに

3――終わりに

これまで述べてきたように、女性は男性に比べると、定年後の働き方を、必ずしもお金だけではなく、健康面や家庭面とのバランスを考えて選択している人が多いのではないだろうか。中には、お金よりも「本当にやりたいこと」を優先して、仕事を選んでいる女性もいるだろう。

実態として、中高年の世代では、女性は男性よりも家計に果たす役割が小さく、家族のケアの役割が大きいため、定年に到達するまでの道のりには、結婚や家族の事情など、常に、別の"何か"と仕事との「選択」を迫られて、戸惑う機会も多かったのではないだろうか。しかし「定年後の働き方」に関しては、家庭や家計の状況にもよるが、女性自身の都合に軸足を置いて判断できる、よりポジティブな選択の機会になると言えるのかもしれない。

ただし、予め理解しておかなければならないのは、希望するか否かに関わらず、定年後の仕事内容は、定年前とは変化する可能性があるという点である。前稿でも述べたように、現在の労働市場では、中高年女性に最も多い職業は「事務職」だが、事務の仕事はシステム化やデジタル化によって先細りしている5。また、60歳を超えると、組織の中の役割も変化する。

女性側に焦点を当ててみても、入社以来、ずっと事務の仕事を続けてきたが、実はコミュニケーションが得意、という人もいるのではないだろうか。長年の会社勤めで、必要に駆られて、コミュニケーション力を培ったという女性もいるかもしれない。筆者らの共同研究でも、中高年女性のうち、「会社や社会で活動していく上での、自身の強み(複数回答)」として「コミュニケーション力」を挙げた人は約4割に上った。定年後は、そのような"隠れたスキル"を活かし、本稿でも紹介したような顧客対応などの仕事に就くということも、リスキリングの一つの方法として、参考になるのではないだろうか。
 
5 坊美生子(2024)「女性と『定年』~男性との違いに注目して」(基礎研レポート)。

生活研究部   准主任研究員・ジェロントロジー推進室兼任

坊 美生子(ぼう みおこ)

研究領域:ジェロントロジー(高齢社会総合研究)

研究・専門分野
中高年女性のライフデザイン、高齢者の交通サービス、ジェロントロジー

経歴

【職歴】
 2002年 読売新聞大阪本社入社
 2017年 ニッセイ基礎研究所入社

【委員活動】
 2023年度~ 「次世代自動車産業研究会」幹事
 2023年度  日本民間放送連盟賞近畿地区審査会審査員

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