2-1│60歳代前半女性の所得分布
まず、定年後の所得分布について検討する。始めに述べておきたいのは、定年制度の有無や定年の年齢、定年後も継続雇用している社員の役割や評価方法、処遇については、企業によって幅が大きいという点である。「定年を経て働き続けている男女」に特定した賃金統計もない。
これらの点を踏まえた上で、現時点では、企業の約7割に定年制度があり、そのうち約7割は定年年齢を60歳としていることから
1、定年後も働く人の所得水準の参考として、総務省の「令和4年就業構造基本調査」より、60~64歳の人の所得分布を、性、学歴、雇用形態別に整理した(図表2)。なおここでは、学歴は「高卒」と「大卒」の2種類、雇用形態は「正規の職員」、「契約社員」、「パート」、「自営業主」の4種類について抽出した
2。
まず男性について、継続雇用の人が含まれるとみられる「契約社員」についてみると、所得階級のボリュームゾーンは「200~399万円」で、大卒では約5割、高卒で約6割を占めた。2番目に多いのが「400~599万円」で、大卒では約2割、高卒では約2割弱だった。3番目に多いのが「199万円以下」で、大卒で約1割、高卒で2割弱だった。600万円以上も、大卒に限れば1割弱いるが、高卒ではわずかだった。
次に、この年代の男性では就業者数は少ないが、「パート」の所得分布を見ると、「199万円以下」が大部分(大卒で7割弱、高卒で約6割)を占めた。
これに対して、60~64歳でも定年前、もしくは定年がない企業で働いていると考えられる「正規の職員」の所得分布を見ると、「200~399万円」が高卒では半数を占め、大卒では約3割だった。大卒では、「400~599万円」が3割弱だったほか、「800万円以上」という高所得層も約2割いた。つまり男性の場合、特に大卒では、正社員として働いているのと、定年を越して契約社員として働いているのとでは、所得に大きな落差があると言えそうである。この点は、前稿で指摘したことと一致している
3。
次に、女性の所得分布を見ていきたい。図表を一見して分かる通り、男性に比べて低所得の割合が大きい。まず継続雇用の人が含まれるとみられる「契約社員」については、就業者数は男性に比べて少ないが、所得分布のボリュームゾーンはやはり「200~399万」で、大卒では5割弱、高卒で6割弱だった。この構成割合だけを見ると、男性とそれほど大きな開きは無いが、男性と違って「400~599万円」の割合が少なく、大卒でも1割弱、高卒ではわずかだった。女性で2番目に多かった所得階級は「199万円以下」で、大卒では約3割、高卒では約4割だった。600万円以上の層も、大卒に限れば1割弱いたが、高卒では0%だった。
次に、この年代の女性で就業者数が圧倒的に多いパートをみると、「199万円以下」が大部分を占めており、大卒では約8割、高卒では9割弱に上った。2番目に多い「200~399万円」は、大卒では約2割、高卒では約1割だった。
これに対して、「正規の職員」の所得分布を見ると、男性と同様に、ボリュームゾーンは「200~399万円」であり、高卒で6割弱、大卒では約4割だった。大卒に限れば、「400~599万円」が3割弱を占めたほか、「600~799万円」も約1割、「800万円以上」という高所得層も1割弱いた。従って、男性ほどの落差はないにせよ、正社員から、上述した契約社員に変わると、所得水準は下がると言える。
つまり、女性の場合は、定年前または定年制がない企業で働き続けている正社員では「200~399万円」の年間所得を得ている人が多いが、定年後にパートの仕事に変えると、ほとんどが200万円未満という低所得層になる。契約社員に変わっても、水準はやや落ちる。
因みに、これまでみてきたように、男女いずれも学歴による年間所得の差が大きいが、この年代の四年制大学への進学率は、男性では3~4割、女性では1割強である
4。