実質賃金プラス転化へのハードル-名目賃金の下振れと物価の上振れ

2024年04月12日

(斎藤 太郎) 日本経済

■要旨
 
  1. 2023年の春闘賃上げ率は30年ぶりの高水準となったが、実質賃金上昇率は2022年4月から2024年2月まで、23ヵ月連続で前年比マイナスとなっている。
     
  2. 実質賃金上昇率のプラス転化時期が想定よりも遅れているのは、名目賃金の見通しが下振れる一方、消費者物価の見通しが上振れているためである。このうち、名目賃金の下振れについては、2023年の毎月勤労統計の賃金上昇率が実態よりも下振れていたことが影響している可能性がある。
     
  3. 2024年の春闘賃上げ率が5%台の高水準となり、先行きの名目賃金の伸びが高まることが期待される一方、ここにきて物価上振れにつながる材料が相次いでいる。
     
  4. 名目賃金の伸びは2024年夏場にかけて3%台まで加速する一方、消費者物価(生鮮食品を除く総合)は当面2%台後半から3%程度で高止まりする可能性が高い。実質賃金上昇率がプラスに転じるのは、消費者物価上昇率が2%台前半まで鈍化する2024年10-12月期と予想するが、賃金、物価ともに先行きの不確実性は高い。
     
  5. 賃金については、毎月勤労統計が必ずしも実態を反映していないという問題がある。毎月の賃金動向を把握することが出来る唯一の統計である毎月勤労統計の信頼性に疑念があることは極めて深刻な事態と考えられる。統計精度を高めるために統計の作成方法を見直したうえで、過去に遡ってデータを改訂することによって、統計利用者が安心してデータを使えるようにすべきである。

 
■目次

●実質賃金プラス転化へのハードル-名目賃金の下振れと物価の上振れ
  ・2024年の春闘賃上げ率は33年ぶりの5%台へ
  ・毎年1月に断層が生じる毎月勤労統計
  ・ベンチマーク更新時の公表方法変更に問題
  ・パート比率の上昇が賃金上昇率を押し下げ
  ・上振れが続く消費者物価の見通し
  ・消費者物価は2024年度末頃まで2%台の伸びが続く見通し
  ・実質賃金上昇率のプラス転化は2024年10-12月期と予想

経済研究部   経済調査部長

斎藤 太郎(さいとう たろう)

研究領域:経済

研究・専門分野
日本経済、雇用

経歴

・ 1992年:日本生命保険相互会社
・ 1996年:ニッセイ基礎研究所へ
・ 2019年8月より現職

・ 2010年 拓殖大学非常勤講師(日本経済論)
・ 2012年~ 神奈川大学非常勤講師(日本経済論)
・ 2018年~ 統計委員会専門委員

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