近年、企業が女性の管理職登用を進めているが、実際に登用されるのは、未婚や子がいない女性に偏っていないだろうか。管理職に就くまでには、組織において中核的な職務に就き、残業や転勤、不測の事態が発生した際の急な対応もこなし、成果を出さなければならない。その役目は結局、働く時間や場所に制約のある育児中の女性には、難しいのではないだろうか――。本稿は、そのような「育児と管理職の両立」、または「育児とキャリアアップの両立」をテーマに考察する。
各紙でも取り上げられているように、2024年の通常国会では、従業員の子が3歳になるまでの働き方として、テレワークを企業の努力義務に追加する育児・介護休業法や次世代支援対策推進法等の改正案が提出される。このように、子どもがいても働き続けやすくする「育児と仕事の両立支援」策は、1990年代初頭の育児休業の法制化に始まり、短時間勤務制度やフレックスタイム制度の導入・拡充など、確実に拡充されてきた。その結果、実際に、出産後に退職する女性は少数派となった
1。しかし、女性が出産しても単に働き続けるというだけではなく、「育児と管理職の両立」、または「育児とキャリアアップの両立」についてはどうだろうか。その答えは、女性管理職比率の数値の低さが示す通りであろう。
そのような中、2016年に施行された女性活躍推進法は、文字通り、女性の職業生活における活躍推進を目的としている。分かりやすく言えば、育児中か否かに関わらず、女性のキャリアアップや管理職登用を推進するものである。つまり、女性の雇用に関する社会課題は、単に、「結婚・出産を経ても働き続けられる」というだけではなく、「結婚・出産を経てもキャリアアップを続けられる」ことにステージが上がったと言える。
そこで本稿では、「育児と管理職の両立」に関する現状について報告し、今後、両立のハードルを下げるために、目指すべき方向性について検討する。なお本稿では、キャリアアップの度合を測る指標として、管理職登用の数値を用いるが、論考の趣旨としては、「育児と管理職の両立」だけではなく、「育児とキャリアアップの両立」を意識していることを、あらかじめお断りしておきたい。
本稿の構成は以下の通りである。まず一般社団法人定年後研究所とニッセイ基礎研究所が昨年10月に共同研究として行ったインターネット調査「
中高年女性の管理職志向とキャリア意識等に関する調査~『一般職』に焦点をあてて~」
2や先行研究から、現在、管理職に就いている女性の育児の状況について報告する。次に、アンケートと同時並行して行った「ダイバーシティ・中高年女性社員活躍に関する大企業取組インタビュー調査」の結果も交えながら、企業側が取り入れるべきことや、女性(または男性)自身ができる工夫について考え、「育児と管理職の両立」を実現していく道筋について検討したい。
1 国立社会保障・人口問題研究所の「出生動向基本調査(夫婦調査)」によると、2010年代前半から、第1子出産後に就業継続する割合が、退職する割合を上回っている。
2 調査対象は、全国の、従業員500人以上の大企業に正社員として勤める45歳以上で、コース別雇用管理制度がある企業では「一般職」と「総合職」の女性。コース別雇用管理制度がない企業では、「主に基幹的な業務や総合的判断を行う職種」と「主に定型的な業務を行う職種」に就く女性。及び、定年前にこれらのコースや職種に就き、定年後も同じ会社で、継続雇用で働いている女性。有効回答数1,326(「一般職」1,000、「元一般職」39、「総合職」258、「元総合職」29)。
女性管理職のうち、子がいる人の割合は4割弱