少子化でも拡大、ランドセル市場-平均価格の上昇で市場規模は563億円へ

2024年02月28日

(久我 尚子) ライフデザイン

1――少子化でもランドセル市場は拡大~2023年は563億円へ

少子化が進行しているにも関わらず、ランドセル市場は拡大し続けている(図1)。2013年から2023年にかけて小学1年生の人口は108.8万人から96.3万人(▲12.5万人、▲11.6%)へと減少し、ランドセルを背負う子どもの数は約1割減っているが、購入されるランドセルの平均価格が3.96万円から5.85万円(+1.89万円、+47.8%)へと実に1.5倍へと上昇していることで、ランドセル市場規模は431億円から563億円(+132億円、+30.7%)へと拡大している。
一方で、今後とも小学1年生人口は減少していく見通しであることから、仮に5年後のランドセル平均価格が現在より+5千円まで上昇していくとし、未就学児の出生数を用いて今後の市場規模を推計したところ、小学1年生人口の減少効果がランドセル平均価格の上昇効果を上回るため、ランドセル市場規模は、2023年頃をピークに縮小に転じ、2028年には514億円程度になる。

なお、2023年度の小学1年生(2016年4~12月と2017年1~3月生まれ)からは、年間出生数が100万人を下回り、その後はコロナ禍の影響で少子化が加速していくため、例えば、5年後のランドセル平均価格が7万円程度へと上昇したとしても、ランドセル市場規模は2024年頃をピークに減少に転じる見通しである。

2――ランドセル市場拡大の背景

2――ランドセル市場拡大の背景~祖父母の購入で価格上昇と購入時期の前倒し、「ラン活」が助長

少子化が進行する中でランドセル平均価格が上昇している背景には、マーケティング領域で「6ポケット」(両親と両祖父母の合計6つの経済ポケット)と言われるように、1人の子どもに充てられる金額が増えていることがあげられる。
先の調査によると、2023年度の小学1年生の購入したランドセルの支払者は祖父母が54.8%を占める。なお、祖父母が支払う割合は、コロナ禍前は6割を超えていたが(2019年度61.3%)、コロナ禍において5割台へと低下している。帰省の自粛やネットショッピングの進展などが影響しているのだろう。

また、近年、ランドセルの購入時期が早まっている。

総務省「家計調査」によると、二人以上世帯の通学用かばん(ランドセルを含む)の支出額は、15年ほど前は入学直前の冬がピークだったが(2005~2007年平均では1~3月がピーク)、5年ほど前は前年の夏(2015~2017年平均では7・8月)がピークに、直近の2021・2022年平均1では5月と8月に2つのピークへと変化している。つまり、GWや夏休みの帰省時に祖父母と一緒にランドセルを選ぶ家庭が増えたということなのだろう。

なお、先の調査では、2023年度の小学1年生のランドセル購入の検討開始時期は2022年4月(入学1年前)と2021年12月にピークがあり、購入する数か月前から検討が開始されているようだ。

このような中で、近年、子育て世帯では「ラン活」という言葉が浸透しつつある。これは「就活」や「保活」などと同様に、ランドセル購入に向けた一連の活動を略したもので、人気メーカーなどのランドセルを購入するためには早期から獲得に向けた活動(展示会に足を運ぶ、早期に予約をするなど)が必要であることを意味する。

なお、「ラン活」という言葉は、記事検索によれば2016年頃から新聞記事などで登場するようになっており、図1を見ると、ランドセルの平均価格が5万円に、市場規模は500億円に近づき、ランドセル市場の成長が目立ってきた頃だ。ランドセル市場は、「ラン活」という言葉が登場する前から拡大傾向にあったが、この言葉が登場したことで、ランドセル獲得競争が一層過熱し、平均価格の上昇や購入時期の前倒しを助長させたと見られる。
 
1 2020年は新型コロナ禍で緊急事態宣言が発出され、特に4・5月は物流などに多大な影響が生じたため除いている。

3――ランドセルの色の多様化

3――ランドセルの色の多様化~男児は黒が過半数、女児は薄紫など多様化、サブスクサービスも登場

小学生が選ぶランドセルの色も変化している。かつては男児は黒、女児は赤が一般的であったが、最近では特に女児で多様化している。

2023年度の小学1年生の男児のランドセルは圧倒的に黒(56.9%)が多いものの、減少傾向にあり、紺(6.9%)や青(9.6%)、緑(4.9%)、こげ茶(1.9%)などの他の色が約4割を占めるようになっている(図3)。一方、女児では男児ほど圧倒的に選好される色はなく、最多は紫/薄紫(29.6%)であり、次いで桃(17.0%)が続き、以下、水色(16.5%)、赤(12.4%)と続く。なお、女児では2020年までは赤が最多で約2割を占めていたが、2021年に紫/薄紫が上回るようになり、女児のランドセルは赤という常識は過去のものとなっている。

ところで、大半の児童は小学校の6年間、同じランドセルを使用しているが、最近ではランドセルのサブスクリプションサービスが登場している2。ランドセル購入時期が前倒しされる中で、入学時には好みが変わってしまうケースや小学生生活の途中で切り替えたいという需要にも柔軟に対応できる。
 
2 「ランドセルも「サブスク」 好み変わっても、定額で交換」(朝日新聞夕刊7面、2023/2/25)

4――小学生の親世代の経済状況の厳しさ

4――小学生の親世代の経済状況の厳しさ~人手不足・賃上げでも正規雇用者の賃金カーブは平坦化

前述の通り、ランドセル購入の支払者は過半数が祖父母であるが、その背景には小学生の親世代の経済状況が厳しくなっている影響もあるのだろう。人手不足で、特に新卒の就活市場は売り手市場だが、その上の年代では厳しい状況も垣間見える。雇用者に占める非正規雇用の割合を見ると、女性では以前から高いが、女性の活躍推進政策によって2014年頃から低下している(図4)。一方、男性では2000年代に入って上昇したままであり、若い年代ほど非正規雇用者率が高い傾向がある。小学1年生の保護者のボリュームゾーンと見られる35~44歳の男性の非正規雇用率は1990年では3.3%だったが、2023年に9.4%となり、今の親世代では祖父母世代と比べて約3倍に増えている。
また、正規雇用者では足元で大企業を中心に賃上げ傾向はあるものの、10年ほど前と賃金カーブを比べると30~40歳代で平坦化し、40歳前後の10年間で大学卒の男性では約▲730万円、女性では約▲820万円も収入が減っている。子育てや住居の購入などで出費のかさむ時期に賃金が増えにくくなれば、ランドセルの購入主体だけでなく、様々な消費行動への影響、ひいては子どもをもう一人望むのかどうかなど多方面に影響を及ぼしてしまう。
足元では物価高が続き、家計の負担感が増す中で、コロナ禍で少子化は加速している。政府は昨年から「次元の異なる少子化対策」と銘打って構造的賃上げや、児童手当の拡充や出産時の交付金の強化といった経済的支援を進めており、子育て世帯に向けた独自の給付を実施する自治体もある。生活困窮世帯を中心に即時的な家計支援策の実行が求められる一方で、中長期的には安心して働き続けられる就業環境の整備を進めることが究極の家計支援策と言えるだろう。

今後のランドセル市場を考えると、子育て世帯の経済基盤の更なる安定化が図られることによって、市場縮小の後ろ倒しも期待できるのかもしれない。

生活研究部   上席研究員

久我 尚子(くが なおこ)

研究領域:暮らし

研究・専門分野
消費者行動、心理統計、マーケティング

経歴

プロフィール
【職歴】
 2001年 株式会社エヌ・ティ・ティ・ドコモ入社
 2007年 独立行政法人日本学術振興会特別研究員(統計科学)採用
 2010年 ニッセイ基礎研究所 生活研究部門
 2021年7月より現職

・神奈川県「神奈川なでしこブランドアドバイザリー委員会」委員(2013年~2019年)
・内閣府「統計委員会」専門委員(2013年~2015年)
・総務省「速報性のある包括的な消費関連指標の在り方に関する研究会」委員(2016~2017年)
・東京都「東京都監理団体経営目標評価制度に係る評価委員会」委員(2017年~2021年)
・東京都「東京都立図書館協議会」委員(2019年~2023年)
・総務省「統計委員会」臨時委員(2019年~2023年)
・経済産業省「産業構造審議会」臨時委員(2022年~)
・総務省「統計委員会」委員(2023年~)

【加入団体等】
 日本マーケティング・サイエンス学会、日本消費者行動研究学会、
 生命保険経営学会、日本行動計量学会、Psychometric Society

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