CCSを知っていますか?-「カーボンニュートラル実現の切り札」の現在地と今後の展望

基礎研REPORT(冊子版)3月号[vol.324]

2024年03月07日

(小原 一隆) 成長戦略・地方創生

1―はじめに

2050年のカーボンニュートラル(以下CN)に向けて、多くの分野で研究・開発が進み、巨額の投資が見込まれる中で、「CCS(二酸化炭素回収・貯留)」が注目を浴びつつある。「CCSなくして、CNなし」とも言われるが、まだ一般にはなじみが薄い。CCSとはどのような技術で、なぜ注目されるのだろうか。

2―CCSとは何か

CCS(Carbon Capture and Storage)は、CO2が大気中に放出される前に分離・回収し、地中に安全に貯留する技術だ。特に脱炭素化が困難なエネルギー多消費産業において有用である。

工場や発電所等の排出源からCO2を効率的に取り出し、貯留場所へ運搬し、地下や海底下深くに貯留し、長期間封じ込める[図表1]。大気中のCO2を減少させ、温暖化ガスの影響を軽減することに繋がる[図表2、3]。

また、CCSと同様に、CO2の回収・利用も進む。CCU(Carbon Capture and Utilization)と呼ばれ、これらを総称してCCUSという。

3―国内の状況と今後の展望

日本では、北海道・苫小牧において実証実験が行われている。現在は海底下に圧入したCO2の漏出有無、地層・海洋への影響等のモニタリングを行っている。

エネルギー・金属鉱物資源機構(JOGMEC)は2030年までの事業開始と事業の大規模化・コスト削減を目標とする国内外7か所のCCS事業をモデル事業として選定し、事業性調査の支援を行う。将来的な海外との協業も視野に入れる。

CCSは、産業振興面でも注目される。日本はCCSの商流にかかわる技術を多く有している。例えば三菱重工業はCO2回収技術で世界シェア70%を誇る。また、半世紀超にわたる液化天然ガス運搬の経験は、CO2運搬船に活用できる。製鉄、エンジニアリング会社は既に内外のCCS施設での実績を有する。今後国内外で増加が見込まれるCCS建設等の場面で、日本企業の強みの発揮が大きく期待される[図表4]。

4―課題

CCS導入には課題が存在する。

技術的課題:回収率向上と低コスト化、更には船舶での輸送実績が少ない点。

経済的課題:回収技術の進展と集積化によるコスト低減が必要。

社会的課題:地域社会の受容。環境面、安全面で判りやすい情報開示と説明。

事業環境:新たな法整備(CCS事業法)、事業者が参入しやすい環境の構築。

先日始まったGX経済移行債は、今後10年で20兆円を調達し、CN向け技術等に振り向けられる。併せてGXでは150兆円超の官民資金が必要だ。うちCCS向けには4兆円超が必要と試算される。民間資金導入には、CCS事業の融資可能性を高める必要がある。政府による資金支援に加えて、官民のリスク分担や、モニタリングの官への引継ぎ等、詰めるべき事項は多岐にわたる。上述した安全性、実効性、経済合理性ともども、更に高めることを期待したい。

5―おわりに

CCSは国策として、多額の国費が投じられる。技術進化と課題克服により、エネルギー政策、環境政策、産業振興において重要な位置を占めるだろう。モデル事業の成功や、国民の理解と納得が期待される。
 
(参考文献等は「CCSを知っていますか? ~『カーボンニュートラル実現の切り札』の現在地と今後の展望~」(研究員の眼、2024年1月15日)を参照))

総合政策研究部   主任研究員

小原 一隆(こばら かずたか)

研究領域:

研究・専門分野
経済政策・人的資本

経歴

【職歴】
 1996年 日本生命保険相互会社入社
      主に資産運用部門にて融資関連部署を歴任
     (海外プロジェクトファイナンス、国内企業向け貸付等)
 2022年 株式会社ニッセイ基礎研究所

【加入団体等】
・公益社団法人日本証券アナリスト協会

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