生物多様性を保全しようという動きは、様々な方向からアプローチされており、例えば
・実際に講じる方策や、生物多様性の定量的な評価方法といった科学技術的な面の検討
・事業会社が、それぞれの分野で生物多様性に与える影響と、対応方針の開示を促すことで、一定の歯止めを掛けようとする動き、
・事業会社にとって、その資金な後ろ盾となる金融機関を通じて、間接的に何らかの対応をせざるをえないように誘導すること、
など、いくつかの異なる方策がありうる。
そのひとつ(上の分類でいうと実際に講じる方策?)として、英国における自然多様性ネットゲイン(BNG :Biodiversity Net Gain)
1という考え方と規制について紹介する。
生物多様性ネットゲインは、土地開発と自然の回復を同時に行う方策である。一般には、土地開発によって、野生動物の生息環境などの自然は失われるが、その代わりに、何らかの形で失われた以上の自然を増やすことで、現状を回復させるどころか、さらに緑を、あるいは生物多様性を増加(=ネットでゲイン)させようということである。
英国においては、2021年に成立した環境法において、「開発前と比べて生物多様性を10%増加させる」ことを義務付けられた。実際にはこの2023年11月より実際に大規模開発に対して適用され始め、2024年4月からはさらに小規模の開発にも適用される予定とされている。
そのやり方には、開発地域内の対応だけで「+10%」を達成できるかどうかによって、大きく3つの方策が認められている。開発地域内で増加させることが原則であるが、それが難しい場合には、他の箇所でも認められるということである。すなわち、
・開発が行われる土地内(オンサイト)で対応できれば、それが望ましい。
・しかしそれが無理でも、開発用地からはなれた自分の土地や土地管理者から購入したい一区画(オフサイト)で対応できればそれも認められる。
・さらにそれも難しい場合には「生物多様性クレジット」なる、他のあらかじめ増加させた土地の購入も認められる(しかし、割高?)
といった、いくつかの手段がある。
(この最後の手段は、気候変動問題への対処における、二酸化炭素排出量の規制でいうところの、「排出権取引」に類似した考え方であろう。)
今のところ、これらについて理解しておく必要があるのは、直接開発に携わるような土地管理者、土地の開発業者、地方計画当局(ローカルプランニングオーソリティ)などで、さらに具体的には、地主、農場経営者、不動産所有者、地方自治体、生物生息地の運営者、施設・不動産の管理者、土地アドバイザー、などである。
土地管理者は、生物多様性ユニットを売って報酬が得られる。
土地開発者は、開発中の土地の生物生息域が失われないように、というかむしろ、10%増加させるように努力しなければならない。その土地だけでできない場合には、別の場所で生息域を造らなければならない。どちらも使用できない場合には、政府から法定クレジットを購入する必要がある。このオプションを利用するには、その根拠を示す必要がある。これが最後の手段である。政府は(この資金を用いて?)英国の他の場所での生息地の創出に投資することになる。あるいはこれらの手段を組み合わせて、ネットゲインを作成できる場合もある。
ある特定のオプションを使用できない理由を示すためには、生態学者も交えて検討する必要がある。そして建設等を開始する前に地元の計画当局から承認を得る必要がある。
地方計画当局は、開発が始まる前に、開発による生物多様性ネットゲイン計画を(問題なければ)承認する。
2――定量的評価方法の概要