2|「最終学歴(高卒以下)」、「喫煙・朝食欠食習慣あり」、「子ども無し」が、月経関連症状の自覚ありに有意に影響
本稿における統計学的な分析において、「最終学歴(高卒以下)」、「喫煙・朝食欠食習慣あり」、「子どもなし」が、月経関連症状の自覚ありに有意に影響を与えることが明らかとなった。
まず、独立変数として投入した最終学歴については、今回の解析において「短大卒以上」「大卒以上」などの様々な区切りのダミー変数を投入し検証を経たものの、最終学歴「高卒以下」が最も当てはまりのよいモデルとなった。
高等学校学習指導要領によると
6、「生涯の各段階における健康」という枠で、心身の発達や性的成熟に伴う身体面や健康課題についての知識の提供を掲げているものの、一方で、その指導に当たっては、「学校全体の共通理解や保護者の理解を得ること」となっており、月経関連症状に関する知識の習得が積極的になされていない可能性がある。筆者が行った実態調査においても
2、7割近くに月経症状が出現しているにも関わらず、全体の4割近くが「我慢」をしており、高等学校卒業時点での知識では、症状緩和のための適切な受診行動に結びついていない可能性が認められる。
ちなみに、サンプル数が少ないものの学術調査に絞ると、女子高生の受診率は2.9%と極端に低く
7、婦人科受診の要件として、本人及び母親の知識と婦人科受診に対する肯定的な意識が有意に関連していることを明らかにしている。
高等学校教育に限らず、大学教育においても月経症状に関する積極的な知識の習得機会はあまりないのが実状ではあるが、母親の理解と受診勧奨がない限り婦人科受診へ向かわない高校生の方がよりハードルが高いと言え、今回の最終学歴高卒以下において月経関連症状の自覚ありに影響した可能性が考えられる。月経関連症状に対する適切な対処行動として、早期からの受診行動を確立させるためには、本人のみならず、家族を巻き込んだ健康教育が重要となるかもしれない。
次に、喫煙習慣については、多くの先行研究において健康影響が報告されているが、特に月経関連症状の関連要因としても関連性が深いものとされている。
8,9煙草に含まれるニコチンは、卵巣の血流減少や一酸化炭素による酸素欠乏を引き起こし、末梢血管を収縮させることで身体が冷え、痛み自覚の感受性が上昇し月経痛の原因となる。また、煙草の成分は、女性ホルモンの一つである卵胞ホルモン(エストロゲン)を作るための酵素の働きを低下させ、折角、卵巣で作られた女性ホルモンも、煙草に含まれる成分により肝臓での代謝(破壊)が促進されて分泌量が減少してしまい、月経不順や無排卵月経などを引き起こしてしまうことが明らかになっている。このように月経症状の自覚に有意に働くだけでなく、将来的な不妊症の原因となりうることにも留意する必要がある。
続いて、朝食欠食との関連性では、直近で生活習慣と月経痛の強さとの関連性を検討した順天堂大学の奈良岡らの研究において
10、月経痛が重い群において朝食欠食の割合が高いことが判明しており、朝食摂取に伴う血流改善の機会を失うことで、子宮収縮による痛みの抑制が図られないことが月経痛に影響していることが明らかになっている。また、本来であれば朝食で得るはずであった月経の炎症抑制や疼痛緩和に効果をもたらす成分(栄養)が不足している実態も指摘されている。例えば、子宮内膜でのプロスタグランジンの産生を抑制させるビタミンDや、シクロオキシゲナーゼの合成阻害などの作用があるビタミンB12などの成分が、朝食欠食により不足し、月経症状が生じるのである。本稿における結果もこのことを裏付けるものとなっている。
さらに、子どもがいない者について月経関連症状の自覚へ有意に影響した結果は、子どもの有無=妊娠・出産経験の有無が影響しているものと考えられる。一般的に、妊娠・出産を経験した女性は、出産前は狭かった子宮の出口が出産(経腟分娩)により拡張し、月経時の出血を体外排出しやすくなるため、痛みを引き起こす強い子宮収縮を引き起こしにくい
11。今回のように子どもがいない者について、月経関連症状の自覚が有意に高い結果を示したのは、妊娠・出産経験による子宮の状態変化(子宮拡張の有無)が影響している可能性が高い。ただし、留意したいのは、月経関連症状の有無に妊娠出産経験が多少なりとも影響しているからといって、症状には個人差も大きく、妊娠・出産を経験したからといって、必ずしも症状が緩和されるわけではない。重要なのは、子どもの有無(妊娠・出産経験)に関わらず、自身の月経に関する症状を認識し、重症度や受診要否を見極めて、適切な対処行動(受診行動)に結びつけることである。
今後、女性の社会進出が進み、妊娠・出産を希望する女性が減少、あるいはタイミングが後ろ倒しになることを想定すると、企業の健康経営の視点として、月経関連症状のコントロールがさらに重要なポイントとなることが予想されるであろう。