政府が本格的にジョブ型雇用について取り上げたのは、2013年6月の規制改革会議とされる。わが国経済再生にあたりその阻害要因を除去するという内閣の強力な問題意識が背景にあり、その一つとして雇用分野の規制改革、とりわけ「失業なき円滑な労働移動」が挙げられた。
その意義は(1)労働市場の二極化是正、(2)ワークライフバランス、(3)成長力の強化、(4)デフレ脱却と賃金上昇、の4点であった。
労働移動のための主要な雇用改革のひとつが正社員改革である。無期雇用、フルタイム、直接雇用という特徴に加え、職務、勤務地、労働時間(時間外勤務)の制約や限定がない、「無限定正社員」という傾向が強いと指摘された。原則、将来どのような職務や勤務地でも働くし、残業の命令があれば従わねばならない。その企業の成員という意味合いが強いため、「メンバーシップ型社員」と言われる(後述)。
規制改革会議雇用ワーキンググループ報告書ではこう指摘する。
「女性が家事に専念するという家族単位の協力によって男性の無限定な働き方を支えたという社会的背景から正社員は男性中心といった傾向が強まり、さらに、その男性が家族を養い続けなければならないことが多かったという意味で賃金制度も生活給的(年功的)性格が強かった。」
そこで、ジョブ型雇用の推奨である。この場合のジョブ型は、職務、勤務地、労働時間のいずれかが限定されているものと定義された。非正規社員の雇用安定、ワークライフバランスの達成できる働き方、女性の積極的活用、無限定型とジョブ型の相互転換によるキャリア継続、そして自己のキャリア・強みの明確化と外部労働市場の形成・発達に資することが謳われた。
残念ながら、ジョブ型正社員の構想はさほど注目されることなく、時が経ったように見受けられる。
時は流れ、岸田政権下、新しい資本主義実現会議で三位一体の労働市場改革の指針が出された。政府の問題意識は、バブル崩壊後の30年にわたる縮小均衡の結果、日本経済は成長力を削がれ世界に大きく出遅れているとの認識のもと、今後は未来への投資を進め、新たな価値を創造する経済が必要、ということである。そのための政策のひとつが、人的資本投資
1で、その一環として労働市場改革を行い、メンバーシップに基づく年功的な職能給を脱し、個々の企業の実業に応じてジョブ型の職務給中心の、日本に合ったシステムに見直す。これに伴い労働移動を円滑化し、高賃金で高スキル人材を集め、労働生産性を上げ、更に高賃金を払うという、構造的賃上げを目指すというものである
2。
1 企業のコストカットは人的資本投資にも及び、これが日本経済の失われた30年の要因の一つであるとされる。
2 ニューヨーク証券取引所における岸田内閣総理大臣スピーチ(2022年9月22日)。
3――給与の種類の解説