1|G7の合意
5月20日に採択された「G7広島首脳コミュニケ」は、英文で40ページ、仮訳で39ページにわたり、その前文で、「デカップリングではなく、多様化、パートナーシップの深化及びデリスキングに基づく経済的強靭性及び経済安全保障への我々のアプローチにおいて協調する」方針が示された。
但し、前文の記載では、中国は名指ししておらず、中国を特定した記述は、「地域情勢」という終盤の項の第51段落、第52段落にある。デカップリングの否定とデリスキングに関する記述は第51段落にある。ここでは、デリスキングは「多様化」と、デカップリングは「内向き指向」とセットで用いられている。デリスキングは開放的で、保護主義とは一線を画するものと位置付けている。「中国を害すること」、「中国の経済的進歩及び発展を妨げようとする」目的はないことも明確にし、「建設的かつ安定的な関係」と気候変動、生物多様性、天然資源の保全、脆弱な国の債務の持続可能性と資金需要、国際保健、マクロ経済の安定などの「グローバルな課題で協力」する姿勢も示している。
デリスキングの具体的な内容としてまず明記されているのは「経済的な強靭性のための戦略」であり、「自国の経済の活力に投資するため、個別に又は共同で措置をとる」、「重要なサプライチェーンにおける過度な依存を低減する」ことである。次に、中国との持続可能な経済関係と国際貿易体制強化のための条件として、これまでも問題視してきた「公平な競争条件」、「非市場的政策及び慣行」、「不当な技術移転やデータ開示などの悪意のある慣行」に触れている。さらに、「経済的威圧に対する強靱性」の促進、「国家安全保障を脅かすために使用され得る先端技術を、貿易及び投資を不当に制限することなく保護する」ことを明記している
5。
デリスキングは、中国と建設的で安定的な関係を保ち、グローバルな課題で協力しつつ、引き続き競争条件の公平化を求め、経済的な相互依存関係の武器化や経済的威圧、安全保障上のリスクを低減するものと読み解くことができる。経済的に大きな犠牲を払うことになるデカップリングに発展しないよう、経済安全保障上、機微な技術に対象を絞り、同盟国・同志国と連携し、グローバル化の恩恵を享受しつつ、相互依存関係が原因となるリスクを削減する戦略と言い換えることもできよう。
経済面でのデリスキングの政策は、基本的に補助金等を活用して戦略産業を強化する産業政策と技術の流出により安全保障上のリスクが高まることを防ぐための規制の組み合わせであり、同盟国・同志国との政策協調とパートナーの拡大によって効果を高めることでできる。
うち、同盟国・同四国との政策協調の枠組みとしては、米EU間の貿易技術評議会(TTC)、日米間の日米商務・産業パートナーシップ(JUCIP)、日EU間のハイレベル経済対話(HLED)、米国主導のインド太平洋経済枠組み(IPEF)などを通じた協調が図られている
6。
中国との競争を意識した産業政策、規制強化は、米国がリードし、日本、EUが追随する形になっている(図表1)。特に、米国の動向と中国による対抗措置については、網羅的にカバーした文献
7もあるため、以下、本稿では、比較分析には踏み込まず、デリスキングの方針表明と前後してEUが打ち出した政策に焦点を絞る。