本稿では、政府統計を用いて、民間企業の男性の育休取得状況を捉えたところ、「産後パパ育休」が施行された2022年の育休取得率は17.13%で過去最高であった。
産業別に見ると、16業種中13業種で男性の育休取得率は上昇しており、2021年に引き続き、「金融業,保険業」や「情報通信業」、「学術研究,専門・技術サービス業」のほか、新たに「医療,福祉」や「生活関連サービス業,娯楽業」も上位にあがっていた。一方、男性の育休取得率が低いのは「卸売業,小売業」や「宿泊業,飲食サービス業」であり、従来から非正規雇用者が多く、正規雇用者と比べて育休取得環境が整っていないことなどが影響している可能性がある。
また、事業所規模別には、30人以上の事業所では、いずれも男性の育休取得率は前年より上昇しており、大規模であるほど取得率は高く、上昇幅も大きくなっていた。一方、30人未満の小規模事業所の男性の育休取得率は1割程度で低く、しかも、2022年の取得率は僅かながら低下していた。なお、育休取得者の代替方法を見ると、大規模事業所や正規雇用者の多い産業では同僚や人事異動による対応が多く、日頃から雇用が安定的に確保されており、人手に余力がある一方、小規模事業所や非正規雇用者の多い産業では人手不足も育休取得の障壁となっている様子がうかがえた。
政府は「第5次男女共同参画基本計画」にて、2025年に男性の育休取得率30%との目標を掲げている。この目標達成に向けて、昨年秋に「産後パパ育休」が創設され、育児・介護休業法が改正されることで制度環境が整えられた中では、今後は育休取得者の代替要員の確保が一層、大きな課題となるだろう。既に人手不足感のある中小企業に対しては行政による具体的な支援が必要であり、例えば、社員が育休を取得した際の助成金の支給、少人数体制における働き方改革や育休取得に向けた人員計画の策定支援などがあげられる。
一方、大企業では現状、既存社員が業務を代替するケースが多いようだが、業務負担の増した社員に対する適切な評価が求められるとともに、今後は男性の育休取得率が更に上昇し、取得期間が長期化することを前提とした採用などの人員計画の策定も必要である。
なお、本稿では育休取得期間には触れていないが(2022年の調査項目に無いため)、男性の育休取得期間を延ばし、育休の質を高めることも課題である。前稿(2021年の調査項目には有り)にて、育休取得期間について男女を比べたところ、女性は10カ月以上が約8割を占める一方、男性は2週間未満が過半数を占めていた(うち約半数は5日未満)。また、男性の育休取得率が高い産業でも、必ずしも育休取得期間が長いわけではなく、取得率首位の「金融業,保険業」では取得期間5日未満が約7割、2週間未満が9割を超えていた(2021年)。育休取得期間は必ずしも長ければ良いというわけではないが、現在のところ、男性の育休は年末年始や夏季休暇と同程度の期間に集中しており、男女の育休の質には隔たりがある様子が見てとれる。前述の通り、育休取得者の代替方法の大半は同僚の対応によるものであった背景には、現状の男性の育休が有給休暇の範囲を超えない程度であることも影響しているのだろう。今後、大企業での取り組みを進めるためには、先駆けて男性の育休取得が促進されている国家公務員男性(2021年の男性の育休取得率34.0%、うち約3割が1か月以上
9)の雇用管理上の課題やベストプラクティスの共有が有意義である。
男性の育休取得の浸透に向けては、政府や大企業などの影響力のある組織が中心となって障壁となる要因を丁寧に取り除きながら、制度の運用を工夫していく、そして、社会全体の価値観を変えていくという息の長い取り組みが求められる。
9 内閣官房「国家公務員の育児休業等の取得状況のフォローアップ及び男性国家公務員の育児に伴う休暇・休業の 1 か月以上取得促進に係るフォローアップについて」(2022/12/6)