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がん : 発がん性物質への曝露によりリスクが増大
IPCC報告書は、気候変動によりいくつかの悪性腫瘍のリスクを増加する可能性が高い(確信度は高い)が、リスクがどの程度増加するかは不明としている。関連の多くの文献は、経路の精緻化と推定に焦点を当てている。しかし、予測される影響に関する文献は限られている。
気候変動により、発がん性のある多環芳香族炭化水素(PAHs)
12、臭化物、ポリ塩化ビフェニル(PCB)を含む残留性有機汚染物質(POPs)
13、放射性物質などが増加することが懸念されている。これらの既知の発がん物質への曝露は、複数の環境媒体を介して発生し、気候変動によって増加する可能性がある。
また、降水量の変化に関連して、紫外線曝露の変化が、屋外作業者の悪性黒色腫の発生率を増加させる可能性があることが懸念されている。
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他の経路として、肝内胆管がんの原因となる肝吸虫の移動と肝吸虫への曝露の増加
15や、気候関連移動による発がんリスクを増加させる住血吸虫症
16などの感染症による罹患
17が含まれる。
複数の経路を介した発がん性毒素への曝露の増加も懸念される。例えば、穀類、落花生、ナッツ類、とうもろこし、乾燥果実などに寄生するコウジカビの一種が産生するアフラトキシンへの曝露は、インド、北米など、世界各国で増加するものと予想されている。
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その他、気候変動に伴って、シアノバクテリア(藍藻)のブルーム(大量発生)に由来する発がん性毒素について、その発生頻度が増したり、繁茂分布が拡大したりすることが予想されるという。
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12 PAHsは、Polycyclic Aromatic Hydrocarbonsの略。ベンゼン環を2つ以上持つ化合物の総称で、急性毒性が強く、強い発がん性があることが知られている。(「多環芳香族炭化水素(PHAs)の分析」(一般財団法人 化学物質評価研究機構のサイト)より)
13 POPsは、Persistent Organic Pollutantsの略。自然に分解されにくく生物濃縮によって生態系や、食品にとりこまれ摂取されることで人間の健康に害をおよぼす有機物のこと。 (「残留有機汚染物質」(フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)』より)
14 Modenese, A., L. Korpinen and F. Gobba, 2018: Solar radiation exposure and outdoor work: an underestimated occupational risk. Int. J. Environ. Res. Public Health, 15(10), doi:10.3390/ijerph15102063.
15 Prueksapanich, P., et al., 2018: Liver fluke-associated biliary tract cancer. Gut Liver, 12(3), 236–245, doi:10.5009/gnl17102.
16 寄生蠕虫(ぜんちゅう)の住血吸虫を病原体とし、川などの淡水に生息するある種の巻貝を中間宿主として感染する。病状が進行すると下痢や血便などを引き起こし、さらに放置した場合、長期にわたり肝臓などを痛めることとなり、また、特定の臓器にガンを誘発して死に至ることもある。(「住血吸虫症」(エーザイ株式会社のサイト)より))
17 Ahmed, S.A., A. Saad-Hussein, A. El Feel and M. A. Hamed, 2014: Time series trend of bilharzial bladder cancer in Egypt and its relation to climate change: a study from 1995–2005. Int. J. Pharm. Clin. Res., 6(1), 46–53.
18 Shekhar, M., et al., 2018: Effects of climate change on occurrence of aflatoxin and its impacts on maize in India. Int. J. Curr. Microbiol. App. Sci, 7(6), 109–116.
19 Wu, F., et al., 2011: Climate change impacts on mycotoxin risks in US maize. World Mycotoxin J., 4(1), 79–93, doi:10.3920/wmj2010.1246.
20 Wells, M.L., et al., 2015: Harmful algal blooms and climate change: learning from the past and present to forecast the future. Harmful Algae, 49, 68–93, doi:10.1016/j.hal.2015.07.009