しかし、昨今の特に推し活は、興味のあるコンテンツそのものへの直接的な消費ではないように見える。つまり、推し活をする・しに行く上でのツールの充実や、直接そのコンテンツというよりも、推しと自身の繋がりを実感できる場所や機会を消費することに焦点が当てられており、特にZ世代にとっては、このことが推し活の大きな関心事の一つになっている。
これは、オリジナルの推し活グッズを作成するという文化が広く浸透したことで、制作する上で必要な材料やツールを簡単に入手できるようになったことも要因の1つだ。応援グッズといえば、1970年代のアイドルブームのころからうちわや法被といったオリジナルの応援グッズが存在していた。2007年頃にはコミックマーケットをはじめとした、オタク系イベントでグッズ購入者に日常生活で使用するには痛々しいキャラクターが描かれた不織布製のトートバック型ショッパーが渡されるようになり、そこから派生してバッグを自身の好きなキャラクターで装飾する「痛バッグ」なども制作されるようになった。以前からオタクはオリジナルのグッズを制作することはあったが、その材料やツールは特定のアニメショップやホームセンター、手芸専門店で集めることが普通であった。しかし、今や100円ショップや若者向けアパレルショップに至るまで、あらゆる所で推し活を
するためのツールが扱われている。特に2019年頃100円ショップのSeria(セリア)が「オタク向け」のグッズを販売したことをきっかけに、ライブやコンサートで手に入れることができる金テープを保管するためのケースから、缶バッジやキーホルダーに傷がつかないようにするための保護ツールに至るまで、オタクの潜在的なニーズを充足するグッズを扱うコーナーを持つ小売りも増加した。また、株式会社AMFが発表した2021年JC・JK流行語大賞においては、自身でトレーデングカードやブロマイドをデコレーションする「トレカデコ」がノミネートされるなど、自身で装飾するという点に重きが置かれた推し活が広く行われるようになり
4、デコレーションする上での装飾品や文房具を充実させた売り場を持つ店舗も登場し、更にはそれを専門にしたメーカーや小売りも現れてきた。元々コンテンツ公式グッズや同人活動の一環として制作されることが多かったアクリルを使用したグッズも、人物やキャラクターなどの画像を印刷して切り抜いて、台座に差して自立できるようにしたアクリルスタンドを筆頭に、1つから作成してくれる業者が増え、数百円からオリジナルの言わば持ち運びのできる推しを作成することができるようになり、若者の推し活になくてはならないモノとなった。
また、株式会社GENDA GiGO Entertainmentは2023年7月25日に、原宿竹下通りに推し活専門ショップ「fanfancy+ with GiGO」をオープンした
5。推し活のための「アイテム」や「オリジナルフード&ドリンク」の販売、更に「ミニチュア撮影スポット」や「レンタル衣装」など、推し活を応援するコンテンツが提供されている。「fanfancy+ with GiGO」のような常設店に限らず、one×one新宿ミロード店にて2023年7月12日~8月15日の期間限定でオープンしている「推し活フェスPOP UP SHOP -わたしらしい推し活- in SHINJUKU」
6のようにポップアップショップとして推し活やオタ活に特化したグッズを取り扱うイベントも増えている。ちなみに「推し活フェスPOP UP SHOP」においては、どんな推し活スタイルにも取り入れやすい、コンサートやイベントなどの「推しの現場(コンサートやイベント)」で役立つアイテムをコンセプトに、応援うちわを可愛く持ち運べる「うちわカバー」や、通常はスマホケースに、イベント時はうちわやペンライトに付けられる「マルチストラップ」など、コンサートやイベントで役に立つグッズを取り扱っている。
ここまで述べてきた通り、推し活やオタ活をする上で便利な道具やオリジナルグッズを作るための材料が以前よりも手軽に入手できるようになったことにより、推し活は、興味のあるコンテンツそのものへの直接的な消費のみならず、ライブやコンサートに行く上での準備への費用やオリジナルなグッズを作る過程の側面も大きくなっており、推しは直接消費(グッズの購入、イベントに参加、出演メディアを視聴する等)することで得られる精神的充足のみならず、応援する上でのツールやそのツールを装飾、保護すると言ったある意味自己満足の側面も合わせもっている。一方で、好きなモノに対して消費する上で、満足のいくツールを持つことや自分なりに好きを表現すること自体が「推すこと」そのものへのモチベーションに繋がるため、推しに対して直接消費するという意味では、必ずしも必要のない消費ではあるが、自分の好きなモノに対して向き合うという意味では重要な消費なのである。
4――推しと自身の繋がり