実際に、この平成24年と令和5年の65歳以上人口の差異を確認すると、2030年で11万人、2040年で60万人、2050年で120万人の乖離が生じており、高齢者の年齢調整死亡率の低下
13や平均寿命の延伸、国際人口移動仮説の効果
14などにより、高齢者人口が大幅に増加したとする推計の見直しが影響し、2015年調査の認知症推計値よりも大幅に増加した今回の推計結果が示されたものと推定される。
次に、2015年調査で認知症有病率の算定に用いたられた糖尿病の増加頻度及び認知症有病率は5歳年齢階級別に算出している一方で、今回の推計では、新たに2060年以降の糖尿病頻度を算出する必要がある関係で、線形補完で2065年・2070の糖尿病頻度を算出し、1歳年齢階級別で算出した認知症有病率を、中央値を用いて5歳年齢階級別に再編していることから、これらの推定手順の違いが値に影響を及ぼしている可能性がある。
続いて、以前の推計では厚生労働省の全国調査の結果から、2012年時点における認知症数462万人に認知症有病率を当てはめている点も影響している可能性が否定できない。実際の認知症の診断には、問診や身体検査、画像検査に神経学的検査を実施され、脳の萎縮の状態や認知機能検査、日常生活動作検査などが必要となり、せん妄や健忘性障害、精神遅滞や統合失調症など区別すべき病態も多数存在する。これらの検査を経て実際に認知症と診断に至った人数に有病率を当てはめた場合には潜在的な患者数が反映されていないことが考えられ、過去の推定では実際よりも過小見積もりとなる可能性が生じる。
いずれにしても、今回の推計では新たな全国将来推計人口値を用いたことで、65歳以上の高齢者層の増加及び年齢調整死亡率の低下を加味した上で、糖尿病頻度が上昇すると仮定した理論値としては新たに推定されたはじめての結果となる。今回の認知症有病率の推計結果が示すように、認知症と診断されている患者数よりも、実際にはより多くの認知症の方が存在している可能性が懸念される。
また、2040年には65歳以上の高齢者層が3928万人とピークを迎える中で、認知症数が1819万人に到達する結果が新たに推定されている。これは、65歳以上の高齢者の46.3%を占める割合となり、もはや無視できない疾患となるばかりか、早急な対策を講じる時期にきていることを示唆している。
(今回の推計値はあくまでも理論値のため、実際に診断に至る認知症数は少ないと考えられる。)
2023年6月14日には、共生社会の実現を推進するための認知症基本法案が参議院で可決され
15、急速な高齢化の進展に伴い認知症の人が尊厳を保持しつつ社会の一員として尊重される社会の実現を図るため、国に認知症推進基本計画の策定を義務付け、自治体の計画策定や公共交通機関などにおける合理的な配慮を努力義務とすることが明記された。6月21日には岸田首相が、「認知症で新たな国家プロジェクト」に取り組む姿勢を表明した
16。翌日の6月22日には、警察庁から認知症で行方不明になったとする届け出が、昨年より1,073人増加し、延べ1万8709人とこれまでの最多を更新したと公表された
17。認知症を巡る動向が活発化しており、これらを契機に(土台にして)、認知症は誰もがなる可能性のある状態との認識を広く国民がもち、支え合う社会を構築することが今求められているのではないだろうか。
今回は、全国の将来推計人口値を用いた認知症の推計を実施したが、次稿からは、地域(エリア)ごとの人口推計値を基に認知症数の推移を推定する予定である。これらをもとに地方自治体は認知症に関わる施策の見直しや予算配分見通しなど効果的な施策展開に着手するための基礎資料として活用いただきたい。
5――まとめ