注目される「需給ギャップ」の利用上の注意点

2023年07月14日

(斎藤 太郎) 日本経済

■要旨
 
  1. 景気の緩やかな回復に伴い需給ギャップのマイナス幅は縮小しており、2023年度中にはプラスに転じる可能性が高い。需給ギャップは経済・物価情勢を判断する上で非常に重要な指標であるが、利用する上では注意すべき点がいくつかある。
     
  2. 需給ギャップはあくまでも推計値であり、推計方法や推計に用いるデータなどによってその値が変わることに加え、事後的に改定されることが多く、プラスマイナスの符号が逆転することもある。一方、需給ギャップの変化の方向(前期との差)は事後的な改定幅が小さく、符号が逆転することもほとんどない。需給ギャップの水準は一定の幅をもって見ることが必要で、マクロ的な需給バランスを判断する上では方向を重視すべきである。
     
  3. 需給ギャップは実質の概念であり、金額に換算することは必ずしも適切ではない。また、需給ギャップの推計に用いられるGDPは年率換算値であり、四半期の需要不足(超過)額を年率換算値で示すことは誤解を招きかねない。
     
  4. 需給ギャップのプラス転化は、2%の「物価安定の目標」の達成に直結するものではなく、過大評価すべきではない。需給ギャップの改善による物価上昇は、フィリップス曲線を右上の方向に動く形で物価上昇圧力が高まっていることを意味する。
     
  5. 日銀が目指しているのは、予想物価上昇率の高まりによってフィリップス曲線が上方シフトし、需給ギャップがゼロ近傍でも消費者物価上昇率が2%程度となることである。日銀が需給ギャップのプラス転化を重要な判断材料として金融政策の正常化に踏み切る可能性は低いだろう。

 
■目次

●注目される「需給ギャップ」の利用上の注意点
  ・需給ギャップのプラス転化が近づく
  ・推計方法によって異なる需給ギャップ
  ・改定される需給ギャップ
  ・需給ギャップは実質の概念
  ・需給ギャップのプラス転化と2%の物価目標との関係

経済研究部   経済調査部長

斎藤 太郎(さいとう たろう)

研究領域:経済

研究・専門分野
日本経済、雇用

経歴

・ 1992年:日本生命保険相互会社
・ 1996年:ニッセイ基礎研究所へ
・ 2019年8月より現職

・ 2010年 拓殖大学非常勤講師(日本経済論)
・ 2012年~ 神奈川大学非常勤講師(日本経済論)
・ 2018年~ 統計委員会専門委員

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