このような状況を打開しようと、「女性の活躍」を国の成長戦略に盛り込み、最重要課題に押し上げたのが第二次安倍政権だ。政府は2003年から「女性の管理職比率30%以上」を目標に掲げていたものの、進捗していなかったため、安倍首相(当時)が自ら旗振りをして、大企業に女性活躍に関わる計画策定や情報開示を義務付ける女性活躍推進法を2015年に成立させた。経済界もこれに応じて、女性社員の管理職登用を急いだ。
しかし、女性の雇用全体を見れば、非正規雇用が過半数を占めていることなどから、「既に活躍している一部の女性を一層、輝かせるだけ」「女性労働者の間に格差が広がる」といった批判も出された。企業の現場でも、何とか「初の女性役員」「初の女性管理職」を達成したものの、登用されたのは未婚や子がいないために長時間労働が可能な女性だけで、後に続く女性人材が足りない、育児との両立を希望する女性のロールモデルにできない、といったケースがあったのではないだろうか。
それに対し、2022年施行の改正女性活躍推進法では、常用労働者301人以上の大企業に対し、「男女間賃金格差」の公表が義務付けられた。今回の女性版骨太の方針原案は、その対象を常用労働者101人~300人の企業にまで拡大することを検討する、というものである。
男女間賃金格差の解消は、一部の優秀な女性社員を管理職登用するだけでは解消しない。女性社員が出産後に退職したり、基幹的なキャリアコースから外れたりすることを防ぐなど、女性社員全体が、ライフイベントを経ても働き続け、男性同様にキャリアアップしていけるように、雇用管理や人事制度全体を見直す必要がある。
そのためには結局、長時間労働や転勤制度の見直しなど、男性を含めた職場全体の働き方を見直さなければならなくなる。「男女間賃金格差の解消」は企業にとって、抜本的に業務見直しと働き方改革を迫る、ハードルの高い指標と言える。逆に、それが達成されれば、キャリアを積み、スキルを培った女性人材が企業に蓄積され、女性管理職も増えていくだろう。「男女間賃金格差の解消」は、女性活躍の土台を築き、企業の事業変革に資すると期待できる
3。
ただし、筆者が「男女間賃金格差の解消」を重要視しているのは、このような企業活動や経済に寄与するためだけではなく、当然ながら、女性自身の生活水準を守る指標になるからだ。現役時代の賃金が安定すれば、老後の年金も充実し、安心した老後の暮らしにつながるためである。
年金の受給金額は基本的に、現役時代の賃金と勤続年数(保険料を納めた期間)によって決まる。したがって現在は、国内の男女間賃金格差と勤続年数の格差が、老後の男女間年金格差を引き起こしている。
厚生労働省の「厚生年金保険・国民年金事業年報」(令和3年度)によると、厚生年金保険受給権者の平均年金月額は、男性が16万3380円に対し、女性が10万4686円と、女性は男性の3分の2に過ぎない。勿論、受給額には個人差があるが、金額別の分布を見ても、違いは明らかである(図表3)。図表の左右(男女)で山の形は非対称となっており、男性(青色)のピークは「17~18 万円」であるのに対し、女性(赤色)のピークは「9~10万円」である。
同年報から厚生年金の保険料を納めた期間を見ると、男性の平均加入期間443か月(36年11か月)に対し、女性は337か月(28年1か月)と、やはり女性は男性の4分の3である。
女性の中では妊娠や出産を機に会社を退職し、子が成長した後に再就職するパターンも多いが、仮にフルタイムの仕事に再就職できたとしても、トータルの加入期間は短くなる上、キャリアの中断によってその後の賃金アップが抑制されれば、年金水準も抑制されることになる。パートなどの非正規雇用で再就職すると、さらに年金水準は低くなる。