アカウント停止に関しては今回の透明性報告の執行期間(2021年4月1日~2022年10月31日)中に二件の指導事例がある
2。一件目は、契約期間満了により自動更新される利用契約について、DPF提供者から理由の説明がなく更新拒絶通知を行ったものである。これまでの実態としては更新されるのが通常であったことから、実態としてアカウント停止と認められるところ、その理由が開示されたとはいえないと経済産業省は判断した。ただ、当該DPF提供者は自発的に経産省へ報告を行い、改めて更新拒絶をする利用事業者に理由を通知するなど問題を是正したことから指導にとどめたとする。
二件目は侵害行為を行った利用事業者と関連があると判定した多数のアカウントに対して即時のアカウント停止を行ったものである。アカウント停止を受けた利用事業者から「身に覚えがない」との申し出を受けて精査を行ったところ、実際には最初に停止したアカウントとは関係がない多数のアカウントを停止していたことが判明した。これらの停止された多数のアカウントは20日前後経過後に再開された。この原因としてアカウント停止判定基準が誤判定を生じうるものであったことが挙げられている。ただ、DPF提供者の意図しない誤判定であること、また誤判定判明後に適切に対応を行うとともに経産省に報告したことなどを踏まえて指導にとどめたとする。
透明性評価はアカウント停止及びそれに伴う売上金の留保は利用事業者に深刻な影響を与える行為であり、消費者等の利益とのバランスを図りつつ適切なプロセスを確保するとともに、継続的に対応改善を図っていくことが求められるとする
3。
より具体的には、i)侵害行為があったときの事前の理由説明の必要がないアカウント停止については、法上の例外事由への該当性を慎重に判断すること、ii)事前の理由説明の必要のあるアカウント停止においては利用事業者が実質的に異議申し立てを行うことができる程度に具体的な理由を事前に開示すること、およびiii)誤ったアカウント停止であることが判明した場合、速やかなアカウントの回復、補償の要否の検討等、利用事業者の利益に十分配慮した取り組みを行うことを期待するとする。これに加え、アカウント停止の適切性について外部検証できるよう、アカウント停止に対する異議申し立て件数や事例の内容について説明することを期待するとしている
4。
侵害行為がなく、かつ正当な理由のないアカウント停止がなされたときに、仮にそのアカウントがDPF提供者またはその関連企業の競争者である場合には、単独の取引拒絶として、不公正な取引方法に該当するおそれがある(独占禁止法不公正な取引方法(一般指定)2項)。このため侵害行為のない通常のアカウント停止では十分な説明を行う必要がある。
さらに、侵害行為がある場合の即座のアカウント停止であるが、これはEUのデジタルサービス法(Digital Services Act、DSA)の考え方を参考にできる
5。DSAは違法なコンテンツ(illegal contents)の流通について定めた法である。違法コンテンツには情報提供だけでなく、物販やサービスの提供を含む(DSA3条(h))。オンライン仲介サービスを含むホスティングサービス提供者は、違法なコンテンツを提供する利用事業者へのサービスを停止すべき義務を負う(DSA23条1項)
6。これは違法なコンテンツを掲示するDPF提供者には法的責任が生じうるとの考えによるものである(前文(20))。
日本法の下でも、具体的な事情にはよるものの、たとえば明白に詐欺的な物品の販売行為を繰り返し行う利用事業者に対してアカウント停止を行わないことは、DPF提供者に法的責任を生じさせる可能性がある。そうすると、DPF提供者は、アカウント停止すべき利用事業者に対しては、消費者被害拡大の防止等の観点から適時・適正に停止する法的な責務があるといえよう。しかし他方で、利用事業者に対し恣意的なアカウント停止を行うべきではないことから、DPF提供者において慎重な判断が求められる。この判断の適正さを担保するのは、DPF提供者においてアカウント停止を判断する透明かつ適正なプロセスを導入し、そしてそのプロセスについて不断の改善を図ることであると考えられる。