本稿ではニッセイ基礎研究所が実施した調査に基づき、
前稿の少子化進行の原因に関わる意識に続いて、政府の「次元の異なる少子化対策」への期待について捉えた。その結果、期待をしている層は全体では約2割にとどまるが、未就学児を子育て中などの子育て前半世代やこれから子育てをしていく世代では約3割を占めて比較的多くなっていた。一方、これらの世代でも、政策に期待していない層も同程度に多く、その理由には、政府の課題認識の甘さや対応の遅さなど過去の政策の不成功体験などがあがり、特に子育て中の女性では厳しい見方をしていた。
当調査では「『次元の異なる』という表現にインパクトがあるだけ」との声も27.5%(ライフステージが第一子誕生である未就学児のいる世帯では38.2%)を占めるが、新型コロナ禍も相まって想定以上に出生数が減少する中では、やはりここで政府には「異次元」の対策を求めたい。
そこで何より重要なことは、これから子育てをしていく世代へ響く対策を実施していくことである。
前稿で見た通り、20歳代から30歳代にかけて未婚者の結婚や子どもを持つ希望は大幅に減退する。希望が減退する前に、将来を担う世代にどれだけ希望を持ってもらえるかが重要だ。
繰り返し述べてきた通り
3、少子化対策を考える上で、将来を担う世代の経済基盤の安定化を図ることに加えて、子育て中の女性の家事・育児負担を軽減するために子育て支援サービスの拡充や男性の育児休業の促進などもあわせて進めていく必要がある。
政府は今後3年間を集中取り組み期間として、「こども・子育て支援加速化プラン」を掲げている(図表6)。この加速化プランを見ると、児童手当の拡充や住宅支援の強化といった経済支援策のほか、男性の育休取得促進などの女性の負担軽減策も盛り込まれている。
一方で、本稿で見た通り、政策への期待が弱い背景には、過去の政策の効果をあまり感じていない国民が多いこともあるが、そもそも若い世代の経済基盤がゆらいでいることがあるだろう。給付金が拡充されても、生活の土台となる経済基盤、すなわち雇用環境が安定していなければ、結婚も子どもを持つことも考えにくい。
足元では新卒採用が活発化し、初任給の大胆な引き上げに踏み切る大企業も増えているが、ひと昔前と比べて、家族形成期の若者の非正規雇用者率は上昇している(図表7)。2014年頃からは景気回復による新卒採用の積極化や「女性の活躍」推進政策によって、女性の非正規雇用者率は低下傾向にあるが、男性ではやや低下している程度であり、1990年と比べて約4.5倍に上昇している。
本来、産業の発展や雇用者の賃金上昇などを期待する場合、労働力の流動化が求められるが、新卒一括採用の歴史の長い日本では、新卒で正規雇用の職に就くことが経済基盤の安定化を図る上では未だ重要である。政府は「2030 年代に入るまでのこれからの6~7年が、少子化傾向を反転できるかどうかのラストチャンス
4」と言うのであれば、非正規雇用の若者の正規雇用化(あるいは正規雇用者と同様に賃金が上昇していく見通しを持てるようなキャリアパスに誘導すること)は急務であり、正規雇用の女性の就業継続(出産・子育てで女性の正規雇用の職を途切れさせないこと)を確実に進めていく必要がある。雇用環境からのアプローチは、少子化対策として直接的な解決策には見えにくいかもしれないが高い効果は期待できるものと考える。