デマンド型交通は、「バスとタクシーの中間の移動サービス」と言われる。定時定路線の路線バスとは対照的に、その時の予約内容に応じて、ダイヤや路線等を柔軟に決める点が特徴である。乗合サービスであるため、乗車中に他の乗客が乗り込んできたり、他の乗客の乗降場所を経由したりすることがあり、所要時間が長くなることもある。実施主体となる市区町村が、運行経費を補助して、利用者の利用料は1回数百円に抑えられているケースが多い。
実際の運行方法は、実施主体や事業者によって様々である。まず経路については、あらかじめ乗降所が指定されていて、予約があった乗降所のみ立ち寄るパターンもあれば、特に乗降所は指定されておらず、対象エリア内ならどこでも自由に乗降できるパターンもある。ダイヤについても、「8時便」「9時便」などのように、あらかじめ目安となる出発時間を定めているパターンもあれば、運行時間帯であればいつでも出発可能、というパターンもある。
道路運送法では、デマンド型乗合タクシーは一般乗合旅客自動車運送事業の「路線不定期運行」か「区域運行」のいずれかであり、地元の交通事業者などで構成する地域公共交通会議等で、事前に協議が整っていることが条件とされている。
デマンドの種類としては、「フルデマンド」や「セミデマンド」などがある。明確な言葉の定義は定まっていないようだが、本稿では、運行本数の違いに着目し、予約があれば、随時、ルートを決めて運行する形態を「フルデマンド」、予め出発時間を決めて運行する形態を「セミデマンド」と呼ぶこととする。
ここで、デマンド型乗合タクシーを、フルデマンドとセミデマンドに分けて特徴を整理すると(図表1)、まずフルデマンドについては、メリットとしては最大運行本数が多いため、より多くの移動ニーズに柔軟に対応できる可能性がある。AIを搭載したシステムを用いる場合、予約時間により正確な配車がしやすい。また、3-2|のチョイソコの事例で述べるように、乗合サービスのプラットフォームを活用して野菜や弁当を運ぶなど、新たなサービスを展開しやすい。デメリットとしては、需要が分散しやすいために相乗りが発生しにくく、実態としては一般のタクシーに近づく。一般のタクシーには、基本的に運行経費に対する公的補助が無いことから、公平性を保つためには、デマンド型乗合タクシーの乗合率(1区間当たりの平均乗車人数)を高めるか、公的な役割を担ってもらうなどの工夫が求められるだろう。
次にセミデマンドは、目安の運行時間に、利用者側が都合を合わせて乗車することから、需要を束ねやすく、より相乗りが発生しやすい。運行本数を限定し、供給を絞るため、効率的な運行になりやすい。デメリットとしては、運行本数が限定されているために、利用者からみた利便性は、フルデマンドに比べれば低くなる。従って、あえて概念化して述べれば、フルデマンドは、「より多くのニーズに柔軟に対応して、輸送の価値を最大化する仕組み」を志向しているのに対し、セミデマンドは「供給と需要を束ねて、輸送をより効率化する仕組み」を志向していると言える。
因みに、どちらのタイプでも、利用者数が少なければ、予約受付や経路の決定、配車指示などをオペレーターが手動で行うことは可能である。利用者数が増えてくると、経路作成や配車指示が複雑になるため、システムを導入した方がスムーズに行える。またシステムを導入していれば、乗降データ等の生成や分析も容易になり、運用の見直しがしやすい。特にフルデマンドの場合は、AIを搭載したシステムを用いる事業者が多い。ただし、利用者が極端に少ない場合は、システムを導入してもメリットが小さく、経費が大きな負担になることがある。
フルデマンドとセミデマンドのどちらが適しているか、システムを導入した方が良いかどうかは、実施主体である市区町村などが、どのような目的で、どのようなサービスを提供したいと考えるか、デマンド型乗合タクシーによって何を実現しようとしているかによるだろう。