本章では、気候指数の作成方法を振り返っておく。多くは、前々回のレポートに記載した内容の再掲となっている。次章に示す、気候指数の計算結果を読み解くうえで、参考としていただきたい。
1|地域区分に分けて指数を作成し、その平均から日本全体の指数を作る
前章で述べたとおり、日本全体を12の地域区分に分ける。また、九州南部と奄美を合わせて、「九州南部・奄美」の地域区分もつくる。各地域区分の指数は、それぞれに含まれる観測地点の指数の単純平均とする。
そのうえで、日本全体の気候指数を、各地域区分の単純平均として作る。平均の計算にあたり、九州南部と奄美については、「九州南部・奄美」を用いる。
2|月ごとと季節ごとの指数を作成する
指数は、月ごとおよび四半期の季節単位(12~2月、3~5月、6~8月、9~11月)に作成する。そして、月や季節の指数と併せて、月の5年移動平均、季節の5年移動平均の指数も設定する。これは、気候変動を、短期間の変動としてではなく、より長いスパンで捉えようとする試みである。
なお、やや細かいが、参照期間の当初5年間(1971~1975年)については、実績が5年分に満たないため、移動平均をとっても変動が大きくなる。そこで、この期間は、5年移動平均の不足分を1971~1975年の平均で補うこととする。
3|指数はゼロを基準に、プラスとマイナスの乖離度の大きさで表される
気候指数は、7つの項目の乖離度をもとに計算される。7つの項目とは、高温、低温、降水、乾燥、風、海面水位、および今回追加した、湿度を指す。計算にあたり、1971~2000年の30年間を、参照期間とする。そして、あらかじめ、各項目の計数値について、参照期間中の同じ月(季節)の平均と標準偏差を求めておく。(以下、本章では季節について、「月」を「季節」と読み替えていただきたい)
ある1つの項目に、注目する。この項目について、ある月の乖離度を求めることにしよう。そのためには、その月の計数値から、参照期間中の平均を引き算する。その引き算の結果を、参照期間中の標準偏差で割り算する。このようにすることで、その月の計数値が、標準偏差の何倍くらい、平均から乖離しているかという、乖離度が計算できる。
乖離度が標準正規分布に従うものと想定すると、-1から1の間に入る確率は、約68.3%となる。逆に、乖離度が1を超える確率は、約15.9%となる。乖離度が2を超えるのは珍しいことで、その確率は、約2.3%。乖離度が3を超えるのは大変珍しいことで、約0.1%の確率となる。このようにして、気候に関する極端さの度合いが、定量化される。この乖離度を、7つの項目それぞれで計算する。
4|元データとして気象庁の気象データと潮位データを使用する
指数作成の元データは、高温、低温、降水、乾燥、風、湿度については過去の気象データ、海面水位については歴史的潮位資料と近年の潮位資料の潮位データとする。いずれも気象庁のホームページからダウンロードして取得したデータとする。
気象データは、日単位のものとし、各観測地点の「日最高気温 (℃)」、「日最低気温(℃)」、「降水量の日合計 (mm)」、「日平均風速 (m/s)」、「日平均相対湿度 (%)」のデータである。乾燥指数のために、降水に関しては、降水現象の有無に関する「現象なし情報」も用いる。
一方、潮位データは、月単位のものとし、各観測地点の「月平均潮位 (cm)」を用いる。
5|7つの項目について、指数を作成する
以下では、ポイントを絞って、項目別に、作成方法を概観していく。いずれも、極端さの度合いを示すものとして、乖離度を用いるという方針が貫かれている。
(1) 高温は、上側10%に入る日の割合から算出
高温は、参照期間中の気温分布に照らした場合に、月のうち、上側10%の中に入る日が、何日を占めるかという割合をとる。例えば、ある年の4月6日については、1971年から2000年までの4月6日とその前後5日間(4月1~5日および7~11日)の、合計330日分のデータのうち、33番目に高いデータが閾値(しきいち)となる。この閾値以上の日が何日あったか、をみることとなる。
気温は、1日のうちにも変動するため、日最高気温と日最低気温のそれぞれについて、その割合をとる。この割合から、参照期間の平均を差し引き、その結果を参照期間の標準偏差で割り算して、それぞれの乖離度が計算される。そして、その和半をとって、高温の指数とする。
(2) 低温は、下側10%に入る日の割合から算出
低温は、高温と同様に、参照期間中の気温分布に照らした場合に、月のうち、下側10%の中に入る日が、何日を占めるかという割合をとる。日最高気温と日最低気温のそれぞれについて、その割合をとる。この割合から、参照期間の平均を差し引き、その結果を参照期間の標準偏差で割り算して、それぞれの乖離度が計算される。そして、その和半をとって、低温の指数とする。
(3) 降水は、5日間の降水量の最大値から算出
降水は、月のうち、連続する5日間の降水量をみる。高温と同様に、参照期間中の降水量の上側10%の中に入る日が、その月にどれだけあるかという割合でみていく。この割合から、参照期間の平均を差し引き、その結果を参照期間の標準偏差で割り算して、降水の指数とする。
(4) 乾燥は、乾燥日が連続する日数から算出
乾燥の指数は、連続乾燥日から算出する。すなわち、乾燥日が何日続くかという、最大連続日数についてデータをとる。その際、乾燥日をどのように判定するかが検討ポイントとなる。降水量が0ミリメートルでも、わずかながら降水が見られる場合と、まったく降水が見られない場合があるためだ。
これについては、気象データにおいて観測単位(降水量0.5ミリメートル)未満で、降水の現象の有無の観測をした結果として表示されている「現象なし情報」を用いて判定する
10。
参照期間中の同月の乾燥日の最大連続日数をもとに、その月の参照期間からの乖離度が計算される。これを、乾燥の指数とする。
(5) 風は、上側10%に入る日の割合から算出
風は、参照期間中の日平均風速の分布に照らした場合に、月のうち、上側10%の中に入る日が、何日を占めるかという割合をとる。この割合から、参照期間の平均を差し引き、その結果を参照期間の標準偏差で割り算して、それぞれの乖離度が計算される。これを、風の指数とする。
(6) 湿度は、上側10%に入る日の割合から算出
湿度は、参照期間中の日平均相対湿度の分布に照らした場合に、月のうち、上側10%の中に入る日が、何日を占めるかという割合をとる。この割合から、参照期間の平均を差し引き、その結果を参照期間の標準偏差で割り算して、それぞれの乖離度が計算される。これを、湿度の指数とする。
(7) 海面水位は、参照期間中の同じ月のデータから算出
海面水位は、月平均潮位から算出する。ただし、季節によって海面水位の高さは変わる。そこで、参照期間中の同月の30個のデータをもとに、参照期間の平均や標準偏差を計算する。それらをもとに、その月の平均潮位の参照期間からの乖離度が計算される。これを、海面水位の指数とする。
10 現象なし情報は、降水の現象があった日は0、なかった日は1の値で表示されている。