女性の健康支援制度の導入は、今後も広がっていくと思われるが、活用を促進するためには、制度内容の周知や、職場における理解の醸成、女性従業員自身の関心を高めることに力を入れていく必要がありそうだ。
生理休暇が活用されていない理由としては、女性従業員の「男性上司に言いづらい」「みんな我慢しているのに自分だけ取りにくい」「女性だけ得していると思われたくない」といった意見
7がある。管理者にも、「サポート策の悪用・乱用する人がいる」といった意見
8が少なからずあることが紹介されており、利用しづらいものとなっているようだ。症状には個人差があり非常に辛い人がいること、周期は人によって異なることなどを理解し、体調が回復してから業務を行う方がメリットが大きいことを周知する必要があるだろう。
また、月経や更年期に伴う不調があっても、当たり前のこと/仕方がないこととして受け止めている可能性がある。その理由として、多くの女性が初潮を迎えるのは学生時代であるが、学生時代は、学校行事や入学試験、部活などにおいては、自分の体調を各種イベントに合わせるのが当たり前になっている。最近、学生にも生理休暇を導入することを求める動き
9があるが、就職してからも自分の体調を合わせようと考えて当然と思われる。また、月経や更年期に伴う不調は、個人差が大きいだけでなく、周期によっても異なり、女性同士でも話題にすることが少ない。気持ちの浮き沈みは自分でも気づかないこともある等、よほどの痛みや不調がない限り、自身の症状が休暇をとったり医療機関等に相談するといった判断をしづらいといった事情もありそうだ。月経の仕組みを学ぶだけでなく、どういった症状が起きうるか、また症状がある場合、どうすればよいか、女性自身が学んでいく必要がある。また、学校や職場においては、症状が重い学生や従業員を、医療機関の受診につなげるような相談窓口や受診サポートが必要になるだろう。就職をしてからは、給料をもらって働くようになるため、学生時代以上に自分自身の体調を振り返り、不調の時は身体を休めるといった考え方も重要となる。
不妊治療については、2022年4月に保険適用範囲が拡大され、企業に対しても仕事と治療が両立しやすい制度作りを推奨している。したがって、治療を受ける従業員が増えることが見込まれ、今後、前述のような前例がないから活用しづらいといった声は低下する可能性がある。しかし、厚生労働省「不妊治療と仕事の両立サポートハンドブック」によれば、治療を受けていることを職場に伝えている人は一部であり、治療をしていることを知られたくないと考え、職場に一切伝えない(伝えない予定)と考えている人が多いことが報告されている。今後、運用面での工夫が必要となるだろう。
なお、出産後も継続して働く女性が増えたことで、産後の職場復帰支援とあわせて育休中のサポートも充実してくると思われる。産後うつ等、国全体の課題に企業が関与していくこともあり得るだろう。
ただし、女性の健康支援は、デリケートな問題でもある。女性の健康課題について職場で情報を得る機会があるのは男女ともにとって良いことだろうが、特に月経、更年期、不妊治療等にともなう不調や休暇については、症状も受け止め方も、個人による差が大きく、誰もが職場で語れるわけではないし、職場にサポートをしてもらいたい人もいれば、伝えたくない人もいる。また、例えば、経済産業省の試算によれば、生理関連の症状で仕事のパフォーマンスが落ちることなどによる損失が「年間4911億円」とされている。これは、女性の健康支援を推進する立場から見れば、モチベーションになり得る情報である。しかし、女性にとって、月経による不調は完全にはなくせないことから、女性というだけでパフォーマンスが低いと言われているように感じてしまい、場合によっては、それが、生理休暇を取得するなど、女性特有の症状に対処しにくい要因となってしまいかねない。
不調の際には休暇を取得することが、職場にとっても従業員にとってもメリットが大きいこと、症状が重い場合は、医療機関を受診することで改善の可能性があることをしっかり伝えていく必要があるだろう。また、「女性の健康」と言うと、女性特有の症状だけが注目されがちであるが、男女とも不調の要因は多数ある。女性のみに適用される生理休暇への理解を深めるためには、性別や年齢関係なく、全従業員が不調の際は休暇をとれる職場環境を築く必要があるだろう。