以上、今回のレポートでは、財務省による「ソルベンシーIIのレビュー:協議-対応」及びPRAによるフィードバックステートメント「FS1/22-ソルベンシーII内のリスクマージンとマッチング調整に対する潜在的な改革」について、その概要を報告してきた。
今回の英国政府による対応結果については、一般的には、業界側の主張の多くが反映された形になっていることから、業界団体等は歓迎している。欧州の保険業界団体であるInsurance Europeも、正式な意見表明は行っていないが、今回の英国政府による改革を歓迎しており、同様の問題を抱えているソルベンシーIIにおいても、現在検討されているソルベンシーIIのレビューにおいて、長期保険契約の提供と持続可能な投資の提供という保険会社の役割を果たす上で必要な改革が行われていくことを期待している、との姿勢を示している。
一方で、格付会社等からは、今回の変更により、保険会社の収益等にはプラスに働く形になるが、(必ずしも格付けに直接的な影響を与えるというわけではないが)資本水準の低下につながる可能性があるとの懸念も示されている。
さらには、今回の変更に伴う資本の解放が、どのように有効に活用されていくことになるのかについては、引き続き不透明性が高いとされており、今後の保険会社の対応や今回の英国政府による対応を受けてのPRAの対応等を注視していく必要がある、との意見も示されている。
ただし、全体的には、例えば、今回の長期生命保険事業のリスクマージンの大幅な引き下げについても、基本的には幅広い関係者の合意が得られているようで、それらの意見を反映する形で、財務省もPRAも今回の変更を進めてきている。具体的には、財務省による2022年4月28日のCPに対する反応として、今回の対応結果に関する公表文書では「ほぼ全ての回答者が、現行のリスクマージンは、その目的(契約者への追加的な保護)を果たすために必要な額よりもはるかに大きいと考えている。最近の経済状況において、長期生命保険事業のリスクマージンを60~70%削減しても、契約者保護が実質的に低下することはないというのが、広範なコンセンサスであった。」と記載されている。また、同じくPRAのDPに対するフィードバックステートメントでは、「一部の回答者が財務上のレジリエンスへの影響とその結果生じる保険契約者保護への影響についての懸念を指摘していた。」としているが、一方で「他の回答者は、保険契約者保護をサポートする体制の他の機能を考慮すると、DPで示されているよりもさらにリスクマージンを引き下げる余地があると考えた。例えば、一部の回答者は、資本管理バッファー、英国の監督の枠組みとプロセス、保険会社の再建及び破綻処理計画の存在、によって保護が提供されると指摘した。回答者はまた、リスクマージンの削減は、貸借対照表の金利に対する感応度を低下させ、リスクマージンのヘッジを容易にすることで、保険契約者の保護をサポートすると指摘した。」と述べられている。
一方で、MA(マッチング調整)の改革に関しては、政府は、PRAの提案とは異なる決定を採用しているが、これについてはPRAの懸念等に対応する形で、PRAに対して一定の監督上の追加措置を行うことができる権限を与えること等の対策を講じることとしている。なお、これに関連して、2023年1月16日に開催された12 月の金融安定性報告に関する財務省特別委員会の公聴会
16において、PRAのCEOのSam Woods氏は、今回のソルベンシーII改革は成長とリスクの間のトレードオフを行っている、と発言して、今回の改革がリスクを高めることになることを認めている。
いずれにしても、今回の英国政府による改革の詳細な内容については、今後の具体的な提案に拠ることころも大きく、今回の改革による影響を評価するためには、さらなるPRA等による対応結果を待つ必要があることになる。これらの改革が実施されるのは2025年以降になることが想定されていることから、引き続きさらなる議論や検討等が行われていくことになる。
英国におけるソルベンシーIIのレビューを巡る動向は、その具体的な改革の内容はもちろんのこと、そのEUソルベンシーIIとの同等性評価に絡む問題、それがさらにはIAIS(保険監督者国際機構)のICS(保険資本基準)の検討における米国のAM(合算法)を始めとする各国の資本規制に対する同等性評価等にも関わってくる問題でもあることから、EUにおけるソルベンシーIIのレビューの動向と合わせて、関係者にとって極めて関心の高い事項である。
日本における新たなソルベンシー規制の検討の上においても、参考になることが多いと思われることから、今後ともその動向を引き続き注視していくこととしたい。