ただし、こうした経緯もある中で、時計の文字盤の「4」を表すローマ数字では「IIII」と表示されているケースが多い
7。
有名ブランドの時計やヴィンテージやアンティークの時計の文字盤を見てみると、確かに「IIII」を使用しているケースが多い(個人的には、ローマ数字モデルを使用しているケースでは殆どといっていいほど、との印象を有している)。一方で、全ての時計のローマ数字の文字盤が、「IIII」を使っているわけではない。有名なのは、ロンドンのウェストミンスター宮殿(国会議事堂)の時計台ビッグ・ベン(Big Ben)で、これはヴィクトリア朝時代の1859年に作られたものだが、ローマ数字の減算則に基づいた「Ⅳ」や「IX」が使用されている。
「IIII」が使用されている理由としては、諸説あるようで、セイコーミュージアム銀座のHP
8によれば、以下の説が挙げられている。
・14世紀後半、フランスのシャルル5世が「自分の称号5から1を引くIVは縁起が悪い」と、時計師に「IV」を「IIII」に変えさせたという説。
・イギリスで14世紀末に作られた最も初期のウェルズ大聖堂の時計にIIIIが使われ、その後、伝統となったという説。
・IVでは6のVIと見分けにくく、左右対称位置にあるVIIIとバランスもいいと考えられたという説。
・ヨーロッパ中世の17世紀頃までは、ローマ数字の4の表記はIVよりもIIIIが一般的だったという説。
また、このHPには「事実、17世紀頃まで建設された有名な機械式塔時計にはIIIIの表記が多く見られます。放射状の文字板のデザインにはIIIIの表記がバランスがよいため、それが業界の伝統となり、その後のクロックやウオッチにも残った、という説が有力と言われています。」と記載されている。
この「バランスの良さ」というのは、(1)(上記の)「IIII」にすることで、左右対称位置にある「VIII」と文字数のバランスが取れる、(2)文字盤を大きく4時間ごとに3つの領域に分けると、最初は「I」のみで構成、次は「V」を中心に構成、最後は「X」を中心に構成となり、バランスがよい、という意味合いがあるようだ。
なお、これ以外にも、例えば以下の説がある。
・ローマ神話の主神(最高神)であるユピテル(英語読みではジュピター)のラテン語の古典綴りがIVPITERとなることから、この最初の2文字IVを使うことで神への冒涜となることを避けるため。
・ある有名なローマの時計製造者が「IIII」を使用したことで、他の製造者もそれに倣った。
・ルイ14世が、文字盤に「IV」を用いることを禁じた。
どうも、どの説が絶対的に正しいといえるものでもなく、これらの諸説がそれぞれに関わりあう形で、現在の状況になっているようだ。時計という精密な機械に、このようにミステリアスな要素が残されているというのは、何となく不思議な感じがするのではないか。