1|就業規則における制度設計、業務繁忙や人手不足、理解の醸成不足の改善などがポイント
次に、なぜ日本において男性の育児休業取得率が低く、育児休業制度を活用して有効に育児に関わることができていないのか。その要因を探るために、平成29年度「仕事と育児の両立に関する実態把握のための調査研究事業報告書」の結果を用いて、要因を分析した。
「男性の育児を目的とした休暇・休業取得の要因」の職場要因において、男性が育児休業を取得しなかった理由をみると、「いずれの休暇・休業も取得していない層」では、「会社で育児休業制度が整備されていなかった」の割合がもっとも高く、38.3%となっていた。
一方で、「育児休業を取得せず、年次有給休暇等で対応した層」では、「業務が繁忙で職場の人手が不足していた」が28.4%でもっとも高く、次いで「職場が育児休業を取得しづらい雰囲気だった」が25.8%、続いて「会社で育児休業制度が整備されていなかった」が24.2%となっていた。
また、末子の妊娠判明時の男性の週当たりの労働時間別でみると、「週60時間以上」の層において取得していない傾向が認められており、育児への関り度合いについても、1週間あたりの実労働時間別で週60時間以上の層では、「育児に十分関われている」に対し「あまりそう思わない・そう思わない」が56.8%となっていた。
さらに、「ほとんど19時までに帰宅していない」層や、「残業のため、深夜勤務をすることがある」層では、「育児に十分関われていない」とする割合が高くなる傾向が認められている。
これらのことから、男性の育児休業取得を阻む要因として、企業の就業規則における制度設計、業務繁忙や人手不足、職場内での理解の醸成不足、長時間労働などが影響していることが明らかになった。企業側は、これらの要因に対し取り組むことで、男性の育児休業取得の促進に効果を与えることができると考える。
これらの要因に対する企業の対策に触れると、「就業規則上の制度設計」については、企業経営者の方針に依存することが大きい。そもそも、企業が育児に関する独自の制度を就業規則に定めるには、企業経営者の判断によるところが大きいため、厚生労働省が示すように
5、仕事とのワークライフバランスを整えている企業であるというイメージアップ、社員の意識向上、生産性向上、優秀人材の確保、人材定着につなげる「健康経営」の意識を企業経営者が持つ必要がある。
企業が育児との両立に関する制度導入や取り組みを実施すると、くるみん認定マークの取得による優遇措置や、イクメン企業宣言により
6、イクメン推進企業として認知されることにより、人材の確保につながるなど、企業側のメリットも存在する。
「業務繁忙・人手不足」も、ICTなどを活用した業務効率化に取り組む必要があり、業務フロー自体を見直すには、これらについて企業経営者は方針を示す必要がある。また、企業内での柔軟な人材配置や、企業の追加コストは発生するが育休取得期間中の派遣社員の採用などに取り組む工夫も重要である。
「職場内での理解の醸成不足」については、先ずは企業の人事や経営企画部部門などが役職ごとに応じた制度説明による理解の醸成や、研修機会を設けて役職ごとに応じた業務の調整方法や分担方法などを具体的に検討する機会を設ける必要がある。管理職や上司など立場が上の者が積極的に休業を取得した事例をイントラネットで共有すると、取得しやすい雰囲気を醸成することができた企業事例もあり、ひとつの手かもしれない。
これらの要因に対する企業の取組みは、制度が活用されやすい働き方改革につながり、各企業の従業員のエンゲージメントの向上が、社会全体での理解の醸成や処遇改善につながる。企業の経営者層をはじめ、管理職や従業員に対し、これらの考え方やつながりを浸透させることに意義があると考える。
尚、長時間労働に対する要因については、男性のワークライフバランスを具体的にどのように調整すれば良いかを明確に把握する必要があるため、男性の生活時間を用いて分析した結果を後述する。