また、国勢調査や経済センサスなどのデータを用いて、街の特性を定量的に把握することも可能である。国勢調査の夜間人口はその地域に常住する人数を、昼間人口は夜間人口に他の地域から従業・通学する人口を加算し他の地域に従業・通学する人口を減算した人数を表わす。「昼夜間人口比率」は夜間人口100人あたりの昼間人口の割合を示し、郊外のベッドタウンでは100を下回り、都心のオフィス街では100を上回る数値となる。平成27年国勢調査によれば、東京23区のうち昼夜間人口比率の上位5区は、千代田区(1,461)>中央区(431)>港区(387)>渋谷区(240)>新宿区(233)、下位5区は江戸川区(82)<練馬区(84)<葛飾区(84)<杉並区(85)<板橋区(90)となっている。
ただし、昼間人口には買い物などを目的とする滞在者を含んでいない。そのため、「Work(働く)」・「Live(暮らす)」・「Play(遊ぶ)」のミクストユースのうち、街の価値を高めるアメニティとして重要な「Play」の要素が欠けている。また、今回のコロナ禍では人々の行動様式に大きな変化が生じたが、現在公表されている指標やデータではその影響をタイムリーに分析することが難しい。
しかし、近年普及が進むオルタナティブデータの一つである携帯位置情報データを活用することで、「Work」・「Live」・「Play」の3つの要素が混在した街のミクストユースをリアルタイムで評価することが可能になると考えられる
3。
そこで、今後数回にわたり、携帯位置情報データをもとに街のミクストユースに関する定量分析手法を考察する。まず、本稿では「KDDI Location Analyzer(以下KLA)」の携帯位置情報データをもとに、JR山手線駅の周辺エリアを比較する。
KLAは、auスマートフォンユーザーから同意を得た上で取得し、個人が特定できない形式で加工したGPS位置情報と性年代等の属性データを活用し、任意のエリアや施設について通行・滞在人口を推計し、データを提供している。
KLAでは、(1)居住者、(2)勤務者、(3)来街者の別に滞在人口を集計することができる。位置情報をもとに居住地と勤務地を推計した上で、対象エリア内に居住地がある場合は居住者、勤務地がある場合は勤務者、それ以外は来街者として集計される
4。したがって、居住者数を「Live」、勤務者数を「Work」、来街者数を「Play」の代替指標とみなすことで、エリアの滞在人口比率をもとに街のミクストユースを定量分析することが可能となる。
3 オルタナティブデータとは、経済統計や財務情報などこれまで伝統的に活用されてきたデータ以外の非伝統的なデータの総称である。伝統的なデータと比べて、オルタナティブデータは速報性が高く、粒度の細かいデータを取得できることが多い。
4 ただし、居住地と勤務地が同一の場合は居住者となる。
3――JR山手線29駅の滞在人口と乗車人員の比較