11月、都内では農業関連のイベントが所々で開催されている。先週末、筆者の自宅近くだけでも次のような催しに多くの人が足を運んでいた。
武蔵野市立農業ふれあい公園は、普段は市民が野菜栽培を学ぶ農業体験教室として利用されている。この日は、そこを運営する、「NPO法人武蔵野農業ふれあい村」
1主催で、市民向けの収穫祭を開催した。コロナ禍ということもあり大々的な告知を控えたものの、130人程の親子が参加して、収穫体験や野菜、焼き芋の購入を楽しんだ。
同じ日、JR中央線武蔵境駅前では、東京農業活性化ベンチャー「株式会社エマリコくにたち」
2の事業である、「農いく!ちびっこ農スクール」の関連イベントが開催されていた。「農いく!ちびっこ農スクール」は、親子が農家の指導で、苗の植え付けから、そのお世話、収穫、荷づくり、販売までを体験する全7回のプログラムである。この日はマルシェに設えた会場で、指導に当たった「富澤ファーム」
3の富澤剛さんと一緒に、子どもたちが自分達で育てた野菜の販売を体験していた。「いらっしゃいませー、こんにちは」、「小松菜ください。おいくらですか?」、「えーと、150円です。ありがとうございました!」といったやり取りを子どもたちは真剣に、そして楽しそうに行っていた。
翌日、都立武蔵野中央公園では、「農産物品評会×CO+LAB MUSASHINO」
4と題した催しが開催された。野菜を積み上げて作られた宝船が飾られた会場では、武蔵野市内農家による農産物の品評会が行われた。出品された野菜は品評会終了後販売されるのだが、販売開始時間のずいぶん前から長蛇の列ができていた。今年初開催した、「CO+LAB MUSASHINO」は、市内の農家と飲食店が連携して、市内産農作物を使った商品を開発する試みである。参加した飲食店9店ほどが会場にキッチンカーを配して、お弁当、サンドイッチ、お菓子など開発した商品を販売した。こちらの列もすごいもので、感染症防止対策として一定の間隔を開けるようにしていることもあるが、どれだけ待ってもたどり着かないのではないかと思わせるほどであった。比較的空いていると思って並ぼうとすると、既に注文の受け付けを終了した店舗だったりする中、筆者がようやく有り付けたのは、クラフトビールで、店員に聞くと、市内でも栽培が盛んなブルーベリーを使ったものだという。
このように、農業関連のイベントが様々な形で開催され、いずれも多くの人が来場し、賑わいを生んでいる。主催する側の開催目的はそれぞれにあるのだが、背景には共通するねらいがあると思う。農業があること、あるいは農的環境があることを多くの人に理解してもらおう、関心を持ってもらおうとすることである。
これに対し、これだけ多くの人が来場しているのだ、そのねらいは成功したと言えるだろう。しかし、これまで全く農業や農的環境に理解のない人がイベントだからといって足を運ぶだろうか?野菜販売に長蛇の列をなすだろうか?
来場する市民にとって、こうしたイベントは休日のひとときを過ごす恰好の機会になるのだろう。だが、訪れている人々の様子を見ると単にひとときを過ごすためだけに利用しているのではないと感じる。
筆者が思うに、足を運ぶ人は、すでに農業や農的環境に一定の理解がある人、関心がある人なのではないか。イベントに訪れるのは、関心のあるテーマに自ら近づこうとする行為と捉えた方がしっくりくる。もちろん関心の度合いは人それぞれで、中にはそれを自覚していない人もいるだろう。だが、いずれにしても、身近に農業が営まれていること、農的環境が存在することを肯定的に捉えている人がかなりの数存在することを意識させるだけの光景なのである。そして、これだけの人が足を運ぶということは、その背後には、足を運ばなくとも気持ちの上で「農」の存在を好ましく感じている人がそれ以上に多く潜在していることを想起させずにいられない。
そのように感じるのは、今回紹介したイベントに限ったことではない。筆者は実は、先に紹介したNPO法人武蔵野農業ふれあい村のメンバーとして、一昨年からNPOの生産緑地での活動に参加し、その活動の中で収穫した野菜の販売を担当している。あるいはそれに関連する活動で、マルシェなどの機会に市内の農家が生産した野菜を販売しながら農業をPRする活動を行っている。
購入する人から、畑がどこにあるのか聞かれることも少なからずあり、その際、場所だけでなく、生産者のことも伝えるととても興味深く聞いてくれる。例えば、シカクマメという野菜を販売したときのことだ。まだ珍しい作物なので、「これどうやって食べるのですか?」と最初に聞かれる。「生産したAさんがおっしゃるには、天ぷらが最高だそうです。沖縄ではポピュラーな野菜で、Aさんのパートナーが沖縄の出身であることから、Aさん宅ではいつもそうやって食べているそうです」と伝えると、面白がって余計に買ってくれる。
こうしたやり取りをする度に、もちろん新鮮な野菜を得たいというのがマルシェを訪れる第一の目的だと思うが、その野菜の成り立ちや、野菜を作っている人にも興味があって、そうしたことに触れることを、人々は期待しているのだと感じる。
大げさに言うと、現在の都市における農業は、既に一定のファン層を獲得しているのである。農業関連イベントは、むしろ生産に携わる人と触れ合える、ファン感謝祭的なものとして考えた方が適切ではないだろうか。
こうした状況が、現在に続く生産緑地制度が導入された30年前と大きく異なると言えるだろう。消費者あるいは都市住民の意識が大きく変わってきたのだ。農的環境が身近にあることで、新鮮な作物を得られ、それを介して人との交流が生まれる。そうした機会を通じて日常生活に彩りや潤いがもたらされる。それができるのは、都市に農業、農的環境が残されているからであり、それに携わる人とつながる機会を作り出す者が登場したからこそである。都市住民はそうしたことまで含めて、都市農業、都市の農的環境を評価しているのだと思う。
それを裏付けるように、農林水産省が三大都市圏の都市住民を対象に行ったアンケート調査
5では、実に全体の7割が都市の農業、農地を残していくべきと回答している。都市農業にとってこれだけ都市住民の支持を得たことはかつてなかったのではないか。
ここ数年、生産緑地の2022年問題が関係者の関心を集めてきたが、そんなことをよそに、都市農業は都市住民から力強い支持を得てきたのである。