無限級数の和と差
2つの無限級数があるとき、その和や差は、2つの無限級数がともに収束する時に、以下のように定義される。
なお、有限数列の場合には、和の順番をどのような形に変更しても結果は同じになるが、無限級数の場合には、足す順番も重要で、足し算の順序を変更することはできない。無限級数の和は足す順序を変更することによって、その結果(収束や発散、収束するとしてもその極限値)が変わってくることがある。
無限級数の和の例
収束する無限級数の場合には、有限級数と同様になるが、収束しない無限級数や収束の有無が不明な無限級数の場合には順番が重要になる。以下でその具体例を示す。
具体例(その1)
1-1+1-1+1-1+・・・
この答えをSとした時、もし有限級数と同じような考え方を使用すると、以下のような計算ができることになる。
(1) S=1-(1-1+1-1+1-1+・・・ )
=1-S
∴S=1/2
(2) S=(1-1)+(1-1)+(1-1)+・・・
=0+0+0+・・・
=0
(3) S=1-((1-1)+(1-1)+(1-1)+・・・)
=1-0
=1
具体例(その2)
1-2+4-8+16-32+64-・・・
この答えをSとした時、もし有限級数と同じような考え方を使用すると、以下のような計算ができることになる。
(1) S=1-2(1-2+4-8+16-32+・・・ )
=1-2S
∴S=1/3
(2) S=1+(-2+4)+(-8+16)+(-32+64)+・・・
=1+2+8+32+・・・
=∞
(3) S=(1+4+16+64+・・・)-(2+8+32+・・・ )
=(1+4+16+64+・・・)-2(1+4+16+64+・・・)
=-(1+4+16+64+・・・)
=-∞
これは、どれも間違っている。無限級数の計算では、勝手に括弧記号を使って、足し算の順番を変更することは許されていない。さらに、勝手に収束する値が存在するとの前提を置くことはできない。
上記のケースはいずれも一定の値には収束せず、発散することになる。
一方で、同様に和と差が交互に現れてくる級数でも、以下のケースでは収束することが示される。
具体例(その3)
1-1/2+1/2-1/3+1/3-1/4+1/4-・・・
この級数の場合、
S2n-1=1 S2n=1-1/(n+1)
となることから、いずれにしても1に収束することになる。
コーシー積
2つの無限級数の積について、「コーシー積」というものがあり、次で定義される。
これについては、「2つの無限級数がそれぞれAとBに収束し、少なくとも一方の級数が絶対収束するならば、それらのコーシー積はABに収束する」(Mertensの定理)が成り立つことが示されている。
最後に
今回は、無限級数に関する話題について紹介してきた。
無限級数なるものは、日常生活では殆ど関係のないものといえるかもしれないが、実は各種の考え方のベースに無限級数的な概念が存在している。その意味で、何らかの機会に一応気にかけてもらえればと思って、紹介させていただいた。
以上、今回までの6回の研究員の眼で、無限に関する話題について紹介してきた。無限については、さらに幾何学的な面からの捉え方等もあり、その概念は極めて奥深いものがある。今回の6回の比較的身近と思われるテーマを通じて、無限というものに、少しは興味・関心を抱いてもらえればと思った次第である。