次に、会社員の定年後の働き方の違いによるK6の平均値の値の違いに注目する。定年後の会社員については、定年前と同じ企業・団体にフルタイムで勤務している人(フルタイム継続勤務会社員)と、定年前とは別の企業・団体にフルタイムで勤務している人(フルタイム転職勤務会社員)の間に大きな違いは見られない
7。一方で、定年前の会社員については、定年前と同じ企業・団体にフルタイムで勤務する予定の人(フルタイム転職勤務予定会社員)のK6の値と、定年前とは別の企業・団体にフルタイムで勤務する予定の人(フルタイム転職勤務予定会社員)のK6の値と比較すると、後者の平均値の方が大きい(ストレスが大きい)傾向が確認できる
8。フルタイム転職勤務会社員が、定年前に現在の働き方を予定しており、定年前には、フルタイム転職勤務予定会社員の回答者と同じ程度のK6の値であったと仮定すると、この結果からは、フルタイム継続勤務予定会社員にとって、定年による勤務先の変化は、こころの健康状態を改善する機会になっている可能性が示唆される。
次に、公務員の定年後の働き方の違いによるK6の値の違いに注目する。定年後の公務員については、定年前と同じ企業・団体にフルタイムで勤務する公務員(フルタイム継続勤務公務員)に比べて、定年前とは別の企業・団体にフルタイムで勤務する人(フルタイム転職勤務公務員)と、働いていない人のK6の値が低い(こころの健康状態が良い)傾向が確認される
9。この要因を確認するため、定年前の公務員の間での分布を確認すると、定年後に、定年前と同じ企業・団体にフルタイムで勤務する予定の人(フルタイム継続勤務予定公務員)に比べて、定年前とは別の企業・公務員で働く予定の人(フルタイム転職勤務予定公務員)のK6の値が低い(こころの健康状態が良い)
10。フルタイム転職勤務公務員の回答者が定年前から現在の働き方を予定しており、定年前には、フルタイム転職勤務予定公務員の回答者と同じ程度のK6の値であったと仮定すると、フルタイム転職勤務公務員のK6が低い(こころの健康状態が良い)のは、もともとそうした働き方を予定する公務員は定年前からK6が低い(こころの健康状態が良い)傾向があるからと考えられる。
一方で、定年前の公務員で定年後に働かない予定の人については、フルタイム継続勤務予定公務員に比べてK6の値が低い(こころの健康状態が良い)傾向は見られない
11。そのため、公務員の間で定年後に働かない人は、もともと定年前からK6が低い(こころの健康状態が良い)傾向があったからということでは説明できなさそうだ。では、どのような理由が、考えられるだろうか。定年後の公務員の間で働かない人の幸福度が高い傾向が示された理由に挙げられたように、「時間の余裕」が考えられるかもしれない
12。定年後に働かない人は、定年前に比べて時間の余裕が生まれ、そのことが幸福度の向上のみでなく、こころの健康の改善につながっているという可能性が考えられる
13。
6 定年後の会社員で「定年前同じ企業・団体にパートタイムで勤務」「定年前とは別の企業・団体にパートタイムで勤務」「働かない」に当てはまる回答者の数はそれぞれ10未満と非常に小さいため分布の掲載を省略している。また、会社員/公務員の定年前定年後のそれぞれで、「その他」の働き方を選択した回答者の分布についても掲載を省略している。
7 別途実施したt検定の結果、会社員で定年を迎えた人の間では、「定年前と同じ企業・団体にフルタイムで勤務」している人のK6の値と「定年後と別の企業・団体にフルタイムで勤務」している人のK6の値の間には統計的に有意な差は認められなかった(有意水準10%)。また、参考資料の表1に掲載した回帰分析の列(2)の結果(被説明変数はK6)からも、「定年前と同じ企業・団体にフルタイムで勤務」している人のK6の値と「定年後と別の企業・団体にフルタイムで勤務」している人のK6の値の間には統計的に有意な差は認められない(有意水準10%)。
8 別途実施したt検定の結果、会社員で定年を迎える前の人の間では、「定年前と同じ企業・団体にフルタイムで勤務」する予定の人のK6の値と「定年後と別の企業・団体にフルタイムで勤務」する予定の人のK6の値の間に統計的に有意な差が認められた(有意水準5%)。また、参考資料の表2に掲載した回帰分析の列(2)の結果(被説明変数はK6)からも、「定年前と同じ企業・団体にフルタイムで勤務」する予定の人のK6の値と「定年後と別の企業・団体にフルタイムで勤務」する予定の人のK6の値の間には統計的に有意な差が確認された(有意水準5%)
9 別途実施したt検定の結果、公務員で定年を迎えた人の間では、「定年前と同じ企業・団体にフルタイムで勤務」している人のK6の値と「定年後と別の企業・団体にフルタイムで勤務」している人のK6の値の間には統計的に有意な差が認められた(有意水準5%)。また、参考資料の表2に掲載した回帰分析の列(2)の結果(被説明変数はK6)からも、「定年前と同じ企業・団体にフルタイムで勤務」している人のK6の値と「定年後と別の企業・団体にフルタイムで勤務」している人のK6の値の間には統計的に有意な差が確認される(有意水準5%)。
一方、公務員で定年を迎えた人の間では、「定年前と同じ企業・団体にフルタイムで勤務」している人のK6の値と「働いていない」人のK6の値の間には、t検定では統計的に有意な差が認められなかった(両側検定でのp値は0.17)。しかし、参考資料の表2に掲載した回帰分析の列(2)の結果(被説明変数はK6)からは、「定年前と同じ企業・団体にフルタイムで勤務」している人のK6の値と「働いていない」人のK6の値の間には有意水準15%で見ると、統計的に有意な差が確認される。
10 別途実施した t検定の結果、公務員で定年を迎える前の人の間では、「定年前と同じ企業・団体にフルタイムで勤務」を予定している人のK6の値と「定年後と別の企業・団体にフルタイムで勤務」を予定している人のK6の値の間に統計的に有意な差が確認された。(有意水準1%)。また、参考資料の表3に掲載した回帰分析の列(2)の結果(被説明変数はK6)からも、「定年前と同じ企業・団体にフルタイムで勤務」する予定の人のK6の値と「定年後と別の企業・団体にフルタイムで勤務」を予定している人のK6の値の間には統計的に有意な差が確認される(有意水準1%)。
11 別途実施したt検定の結果、定年前の公務員の間では、定年後に「定年前と同じ企業・団体にフルタイムで勤務」を予定している人のK6の値と「働かない」予定の人のK6の値の間には統計的に有意な差が認められない(有意水準15%)。また、参考資料の表3に掲載した回帰分析の列(2)の結果(被説明変数はK6)からも、「定年前と同じ企業・団体にフルタイムで勤務」を予定している人のK6の値と「働かない」予定の人のK6の値の間には統計的に有意な差は確認されていない(有意水準15%)。
12 岩﨑敬子(2022/10/27)基礎研レポート「定年後の働き方と幸福度の関係」
(https://www.nli-research.co.jp/report/detail/id=72800?site=nli)
13 参考資料の表2に掲載した回帰分析の列(2)の結果(被説明変数はK6)では「働いていない人」のダミー変数の係数が負で有意(有意水準15%)である一方で、時間の余裕の変数を追加した列(5)の推計では、時間の余裕の変数は負で有意であるが、「働いていない人」のダミー変数の係数が有意でない。この結果からも、定年を迎えるまで公務員で、定年後に働いていない人は、時間的な余裕が生まれることを通して、こころの傾向が高まった可能性が確認できる。