定年と生き方モデルの考察-筆者連載「セカンドライフの空洞化問題(1~5)」の(3)より

基礎研REPORT(冊子版)11月号[vol.308]

2022年11月08日

(前田 展弘) 高齢化問題(全般)

■ 何歳まで働けるのか?

「いつまで今の仕事を続けられるか(=定年がいつか)」は、勤めている企業等によって異なるわけだが、世の中全体で見た場合、どのような状況になっているのか。図表1がその状況をまとめたものになる。ご覧の通り、定年を廃止している企業は4%、定年を70歳以上に設定している企業は1.9%、66歳以上(66~69歳)は1.1%といった状況である。この段階で確実に65歳以上働ける企業は僅か7%にすぎない。残りの約9割(93%)は、65歳定年か(21.1%)、60歳(以上)定年で(71.9%)65歳まで継続雇用されるパターンと推定される。

注目される「70歳までの就業確保措置(努力義務)」の実施状況であるが、法改正施行初年度では25.6%、4社に1社が実施している状況であった。ただ、この25.6%の企業に勤める人が、全員70歳まで何らかの就業等を継続できるわけではないことには留意が必要である。採用している措置の大半は「雇用継続支援」であり、条件をクリアーした一部の従業員のみがこの措置を受けられているのが実態であろう。したがって、現役からの延長線上で70歳まで働くことができる会社員等は極僅かの人たちだけであり(ざっと見積もって1割程度の人たちではないかと推測している)、多くは65歳を一つの起点として、自らの力で新たなキャリアづくりに励まなければならないのが現状と思われる。

■ 人生100年時代の生き方・活躍の仕方

人生100年時代に照らせば、65歳で定年を迎えても35年の人生が残される。この期間はもはや老後や余生と呼べるほど短いものではない。人生100年時代に相応しい理想的な生き方・活躍の仕方とは一体どのようなことなのか、図表2にそのモデルパターンを描いてみた。パターンAは就職後の会社で65歳まで勤め上げる生計就労モデル、パターンBはAから5年延長した70歳までの生計就労モデル、パターンCは65歳までは生計就労に勤しみ、65歳以降は自宅のある"地域"の中で生きがい就労を"楽しむ"モデル、パターンDは若いときから様々なキャリアを流動的に積み重ねながら歩んでいくモデルを示している。

筆者として理想と考えるのはパターンCのモデルである。パターンAにしてもBにしても、65歳あるいは70歳以降も、"何かをしたい"と考える高齢者は実際多い。その高齢者の多くは年金という経済基盤を手にする。そのこともあって現役当初と同じようなハードな働き方は望まないし、その必要もない。また、自宅に近いところで新たな居場所(活躍場所)を求めたいという意向が強いこともよく見聞きする。これらを踏まえれば、65歳を起点に生計就労から生きがい就労に切り替え、年齢や体力等に応じて担当する仕事の量や中身を適度に変えながら、例えば85歳くらいまで活躍し続けられるパターンCが望ましいのではないかと考える。なお、高齢者の多くは「自由にマイペースで働けること」を望んでおり、そのことからすれば、「起業」「個人事業主」「フリーランス」として活躍するパターンもニーズがあるだろう。いずれにしても、こうした様々なパターンを考えながら「どこで、いつまで、どのように活躍したいか」、できるだけ若い時から考えていくことが重要なことであろう。
 
* 本稿は、主に定年のある会社員、公務員等を対象に記載している。

生活研究部   上席研究員・ジェロントロジー推進室兼任

前田 展弘(まえだ のぶひろ)

研究領域:ジェロントロジー(高齢社会総合研究)

研究・専門分野
ジェロントロジー(高齢社会総合研究)、超高齢社会・市場、QOL(Quality of Life)、ライフデザイン

経歴

2004年     :ニッセイ基礎研究所入社

2006~2008年度 :東京大学ジェロントロジー寄付研究部門 協力研究員

2009年度~   :東京大学高齢社会総合研究機構 客員研究員
(2022年度~  :東京大学未来ビジョン研究センター・客員研究員)

2021年度~   :慶応義塾大学ファイナンシャル・ジェロントロジー研究センター・訪問研究員

内閣官房「一億総活躍社会(意見交換会)」招聘(2015年度)

財務省財務総合政策研究所「高齢社会における選択と集中に関する研究会」委員(2013年度)、「企業の投資戦略に関する研究会」招聘(2016年度)

東京都「東京のグランドデザイン検討委員会」招聘(2015年度)

神奈川県「かながわ人生100歳時代ネットワーク/生涯現役マルチライフ推進プロジェクト」代表(2017年度~)

生協総研「2050研究会(2050年未来社会構想)」委員(2013-14、16-18年度)

全労済協会「2025年の生活保障と日本社会の構想研究会」委員(2014-15年度)

一般社団法人未来社会共創センター 理事(全体事業統括担当、2020年度~)

一般社団法人定年後研究所 理事(2018-19年度)

【資格】 高齢社会エキスパート(総合)※特別認定者、MBA 他

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