3.1 「使いづらい」制度
2021年の成年後見の開始の申立は39,809件
4であった。このうち申立が認容されたのは37,582件と、申立件数の約95%に達する。
5つまり、成年後見制度の利用を希望する人の大部分は、実際に制度を開始することができている。それにもかかわらず、成年後見制度の利用が広がらない原因はどこにあるのだろうか。
一般に、ある制度が適切に運用されているにもかかわらず、潜在的な利用想定者に利用が広がらない場合、その原因は、(1)制度の存在自体を知らない、(2)制度は知っているが利用を希望していない、のいずれかであると考えられる。
政府は、成年後見制度の利用の促進に関する施策の総合的かつ計画的な推進を図るため、2018年に成年後見制度利用促進会議(及び成年後見制度利用促進専門家会議)を厚生労働省に設置した。会議においては、利用促進のためには、(1)、(2)共に改善が必要であると指摘された。中でも、本人やその家族から見た際の制度自体の使いづらさは大きな課題であるとの言及は多くなされた。このことから、(2)の状態にある人の多さが利用促進の大きな妨げとなっていると考えられる。
制度の利用が希望されない具体的な要因としては、主に以下のような点が指摘された。
第一に、誰が後見人等になるかは家庭裁判所の選任に基づくことから、本人や家族の希望する人
6が選ばれるとは限らない点だ。同時に、本人にとって最適であると思われる人物を家庭裁判所が選任するという制度趣旨から、仮に本人や家族の望まない人が後見人等に選任されたとしても、本人や家族による不服申し立てはできず、かつ、制度の利用自体を取りやめることもできないという点も、制度を使いづらいものとしている。さらに、後見開始後の後見人等の交代は、後見人等による資産の着服が明らかになった場合等、極めて限定的なケースに限られる。
ちなみに、後見人等と本人の関係性については、2000年の制度の開始後しばらくは親族が選任されるケースが多かったが、次第に弁護士や司法書士等の専門職後見人の占める割合が高くなっている。その結果、10年ほど前には専門職後見人が選任されるケースは約3割ほどであったが、直近では約8割で専門職後見人が選任されている。その背景にあるのは、親族後見人等による横領等の不正への懸念だ
7。
2019年に最高裁は、財産管理のみならず、身上保護や本人の意思決定支援の側面も重視する必要があるという観点から、「本人の利益保護の観点からは、後見人となるにふさわしい親族等の身近な支援者がいる場合は、これらの身近な支援者を後見人に選任することが望ましい」
8とする基本的な考え方を明らかにした。しかし、その後も親族が選任される割合はほとんど変化していない(図表5)。