II層シニアに対するマッチングが進まない状況について課題を整理すると次のことが挙げられる。
【課題1】II層シニアに向く仕事がない
【課題2】II層シニアを対象としたマッチングシステムがない
【課題3】生涯現役の価値を高める文化・価値観づくり(が足りない)
最大の課題は、課題1に挙げた「仕事がない」ということである。II層シニアの多くは、マイホームを所有して、そこそこの年金を有していて、無理してまで働く必要はない。ただ、定年後もまだまだ元気で"何かをしたい"という要望はある。筆者がこれまでの様々な活動から認識するII層シニアが望む新たな仕事の内容(条件)としては、「(1)自分が役立てる、感謝される仕事、(2)楽しみがある仕事、(3)マイペースで無理なく働ける仕事、(4)適度な責任の中で働ける仕事(過度に責任の重い仕事は望まない)、(5)主体的に創造・工夫等ができる仕事(単純労働、こなすだけの仕事は好まない)」といったことがあるが、実際の高齢者向けの求人で多いのは、「軽作業、補助業務、清掃、施設管理、送迎、保安」といった一部の仕事ばかりであり噛み合わない。単純な労働力としてII層シニアを求めることは難しいのが現実だ。
ただ、こうした現状は当然の帰結と言えることでもある。求人は、企業が労働力として必要としているため、必ずしも働く側の要望に応える必要はない。高齢者の就労支援に向けて行われる求人募集担当者
1の活動の中心は、企業に訪問しての「業務の切り出し」の依頼であり、得られる求人情報はあくまで企業のニーズに沿ったものだけになる。このままではいつになっても平行線が続くだけとなる。
そこで求められる重要なことは、"互いの歩み寄り"ということになろう。企業とII層シニア双方が歩み寄るということである。企業側はまず意識の面で、II層シニアの多くは豊富な経験を有した有能な人財であると捉えた上で、II層シニアを経営に活かす視点から"積極的かつ創造的な"業務の切り出しの作業を行っていただきたい。また、求人情報の見せ方もII層シニアの心(ニーズ)に響くような情報を発信していただきたいということがある。業種にもよるが、日本の多くの企業はジョブディスクリプション(職務記述書)が定められていない。そのためそもそも業務を切り出すこと自体が難しいと考える企業も少なくないと想像する。そうしたなかにあっても、II層シニアを想定し「この時間帯だけ」「この業務だけ」を切り出すようなことを是非実践していただきたいところである。また、その求人情報(募集内容)も無味乾燥とした内容ではなく、どれだけの楽しみや充実感があるかなどII層シニアを想定したアピールを心掛けていただくことで一歩でも歩み寄りがはかられると考える。
また、仕事開拓の領域に注目すれば、「地域性の高い」領域がとりわけ期待される。
本稿シリーズ(4)でも述べたが、高齢者の多くは自宅に近い「地域」の中で活躍することを望んでいる。また前述のとおり「自分が役立てる、感謝される」ような要素があると、新たな活動に進むモチベーションにつながりやすい。そのように考え地域に目を向けると、例えば、自治体を中心とした「公共サービス分野、子育てや生活支援、介護・福祉、農業や観光」など、地域として人が必要な領域が有力な開拓候補になると考える。
一方、II層シニア側も歩み寄る必要がある。二点ほど挙げるが、一つは"食わず嫌い"の習慣を見直すことである。仕事を紹介しても、「この仕事はつまらない、楽しくない」とイメージによる先入観から端から敬遠してしまうケースが少なくない。しかし、実際行ってみると、意外な楽しみや働きがいが見つかったりする。まずは経験してみる、というスタンスも必要と思われる。もう一つは、「リスキリング」である。自分の可能性を拡げるためには、現役時代の経験だけでなく、新たなスキルを習得し続けることも大事なことである。デジタル化が一気に進む現代では、PCのスキルはもちろん、関連するICTの環境にも慣れておくことなども必要であろう。いずれにしても、こうした双方の歩み寄りが進められることで、マッチングの頻度と精度は少しずつ上げていくことができるのではないかと考える。
では、こうしたことを誰が旗を振って進めていくのか、またマネジメントしていくのかという課題2の問題が次にある。主にII層シニアを対象としたマッチング支援の組織は、あるようでない(少ない)のが現実だ。シルバー人材センターも社会にとって重要な組織であることは変わりないものの、基本的に「会員」組織であることと加入率が低迷していることなど課題は少なくない。また
本稿シリーズ(4)で紹介した生涯現役促進地域連携事業及び生涯現役地域づくり環境整備事業も道半ばの状況にあり、そもそも展開している地域が少ない。また、推進する組織が少ないということに加えて、高齢者を雇用しマネジメントすること自体がかえって業務負荷になり、及び腰になるということもよく聞かれる話(課題)である。業務の切り出しができても、複数人の高齢者の方を時間単位、業務単位でマネジメントすることが煩雑で難しいという指摘だ。新たに雇用するぐらいならば、忙しくても自らで対応してしまった方が早いという発想にもとづく。このような課題点も視野に入れながら、今後について期待したいのは、"民間企業の力"である。生涯現役地域づくり環境整備事業でも期待されているように、これらの問題に対する民間企業への期待は大きい。今でも多くの企業が高齢者のマッチング支援を行っているが、その対象はどちらかと言えば、マッチングが比較的スムーズなI層、またはあくまで労働力として期待されるIII層が中心のように見受けられる。そこでさらにII層シニアまで視点を拡げ当該層の特性(ニーズ)を踏まえた支援を進められないだろうか。例えば、AIを駆使してシニアの多様性を踏まえたマッチングを支援する、また高齢者向けの新たなマネジメントツールを提供するなどである。こうした民間の創意工夫等を期待したいところである。
以上のように、II層シニアを中心にマッチング支援の必要性を述べてきたが、この問題の最も根底にある重要なこととして、課題3に挙げた「文化・価値観づくり」もある。むしろこのことが課題解決の出発点になり得る。生涯現役として働き続けること(活躍し続けること)が果たしてよいのかどうか、その受け止め方は人それぞれ異なるであろう。また、企業として高齢者を雇うことには潜在的なエイジズムも依然根深く残っていて抵抗を感じる経営者も少なくないと思われる。しかしながら、人口減少下で労働力不足が深刻化し、高齢者が約4割を占める超高齢社会が今後常態化していく未来のことを考えれば、社会として企業として生涯現役社会を目指すことは必然なことである。そして何よりも、年齢に関わらず社会の中で活躍し続けられることは、個人の健康や生きがいの面で貢献し、経済的な支えにもつながっていく。こうした「生涯現役」の価値を社会全体、地域全体で共有していくことが未来にとって不可欠と述べたい。そのためには、「生涯現役」に対する人々の新たな文化・価値観を今以上に社会に広く知らせる努力が必要であり、その先導役としては、まずは国に期待しつつ、同時に各自治体のリーダーシップに期待したいところである。