サステナビリティに関する意識と消費行動-意識はシニアで高く、行動はZ世代の一部で積極的、経済的ゆとりや人生の充足感も影響

基礎研REPORT(冊子版)8月号[vol.305]

2022年08月05日

(久我 尚子) ライフデザイン

1―サステナブル意識の高まり

コロナ禍の影響も相まって、社会や地球環境の持続可能性への関心が高まっている。

ニッセイ基礎研究所の調査によると*1、「SDGs」は20~74歳の約7割が、「再生可能エネルギー」は約6割が耳にしたことがあると回答している。

また、サステナビリティについての意識や行動について、どう思うかをたずねた結果では、「地球環境や社会問題は他人事ではない」では、そう思うとの回答が約6割、「サステナビリティについてすぐに取り組まないと手遅れになる」や「社会の一員として、何か社会のために役立ちたい」では約半数を占める[図表1]。
なお、図表1のサステナビリティに関わる『意識』についての項目では、そう思うとの回答が比較的高い傾向があるが、「サステナビリティに関する情報を発信している」「サステナビリティを意識してボランティア活動をしている」といった具体的な『行動』についての項目では、そう思うとの回答は1割程度にとどまる。

つまり、現在のところ、サステナビリティに対する高い意識は醸成されつつあるが、意識の高さと具体的な行動の取り組みには隔たりがあるようだ。
 
*1 インターネット調査、株式会社マクロミルのモニターを利用。調査期間は2022年3月23日~29日

2―意識はZ世代よりシニアで高い

図表1の設問について、性別に見ると、そう思うとの回答は、いずれも女性が男性を上回り、特に「地球環境や社会問題は他人事ではない」では2割以上の差がひらく[図表2]。
なお、男性と比べて意識の高い女性でも、情報の受発信やボランティア活動などの具体的な行動では、そう思うとの回答は約1割にとどまり、現在のところ、意識と行動には隔たりがある。

年代別には、意識面では、そう思うとの回答は高年齢層の方が高い傾向があるが、「サステナビリティについて家族や友人と話すことがある」などの行動面では、おおむね50歳代を底に20歳代やシニアで高い傾向がある。特に20歳代ではボランティア活動や情報発信での高さが目立つ(いずれも約2割)。

ところで、よく世間では「Z世代はサステナブル意識が高い」と言われるようだが、当調査では、人生経験が長く、社会課題について幅広い知識を蓄えているであろうシニアの方が意識は高い傾向がある。一方でZ世代を含む20歳代の方が、約2割と多数派ではないが、具体的な行動に積極的に取り組んでいる傾向がある。よって、世間で言われるZ世代の印象は、世代全体というよりも、Z世代の一部に存在する積極層の行動によるものと見られる。

3―経済状況や人生の充足感も影響

このほか様々な属性による違いを把握しやすくするために、図表1の回答に対して因子分析を用いて、「行動に積極的」と「高い意識を持つ」という2つの要因に要約し、それぞれに対する因子得点を座標として図示化したところ、いくつかの特徴が見られたため、主だった特徴を紹介したい*2[図表3・4]。
なお、図表3・4では上へ行くほど「高い意識を持つ」傾向が、右へいくほど「行動に積極的」な傾向がある。ただし、繰り返しになるが、現在のところ、意識と行動には隔たりがあるため、横軸については、あくまで相対的な位置関係を意味するものである。

図表3では、世帯年収が高いほど右上に位置する傾向があり、経済的な余裕があるほどサステナブル意識が高く、取り組みにも相対的に積極的であると言える。

図表4では、「自分は望む生き方ができていると思う」との問いに対して、肯定的であるほど右上に位置する傾向があり、人生の充足感が高いほどサステナブル意識が高く、行動にも相対的に積極的であると言える。ただし、この因果関係は不明であり、逆に、ボランティアなどの社会貢献活動に積極的に取り組んでいるために、人生の充足感が高く、自分の人生に対して肯定的であるとの見方もできるだろう。

なお、この「自分は望む生き方ができていると思う」との問いに対して、そう思うとの回答割合は、男性より女性で、年代別にはシニアで、世帯年収別には800万円以上で高い。つまり、サステナブル意識が高い層では、人生の充足感が高い傾向があり、サステナブル意識と人生の充足感には密接な関係があるようだ。
 
*2 詳細は、久我尚子「サステナビリティに関する意識と消費行動(2)」、ニッセイ基礎研究所、基礎研レポート(2022/6/8)参照。

4―価格よりサステナビリティは少数

さらに、消費生活において、サステナビリティに関わる行動を具体的にあげて、その実施状況をたずねたところ、圧倒的に多いのはエコバッグの持参であり、実に約8割を占める[図表5]。また、リサイクル可能なゴミの分別や洗剤やシャンプーなどの詰め替え製品の購入は半数以上を占める。

一方で「価格が安くても、地球環境や社会に悪影響のある製品は買わない」や「価格が多少高くても、環境や社会問題に配慮された製品を買う」といった価格よりサステナビリティを優先して買うとの回答は1割に満たない。

つまり、多くの消費者にプラスチックごみが出にくい消費生活が浸透しつつあるものの、価格よりサステナビリティを優先して製品を買う消費者は、現在のところ少数派である。この背景には、サステナブル意識を投影できるような製品やサービスが、まだ少ないことのほか、価格を優先して購入したとしても、モノを大切に長く使う、リサイクルするといった行動でも持続可能な社会づくりに貢献できることも影響しているのだろう。
なお、図表5の選択割合は、性年代別には男性より女性、年代別にはシニアで高い傾向がある。ただし、「売上の一部が地球環境や社会問題に寄付される製品を買うようにしている」など、製品を買うこと自体が社会貢献になる行動は、1割に満たないながらも、シニアや20歳代で高い傾向がある。

5―試される企業の知恵と工夫

サステナビリティというと、企業はZ世代を思い浮かべがちだが、行動に積極的な層はごく一部であり、意識で見れば、むしろシニアで高い。特に導入期の現在は、先入観にとらわれずに、消費者の属性による特徴をきめ細やかに捉えたターゲット設定が重要である。

一方で、足元では物価高で家計の負担が増す中、サステナビリティに関わる取り組みには距離があるように見えるかもしれない。リサイクル素材を使った新製品の開発やサプライチェーンの見直しなど、企業にとってサステナビリティを配慮した製品の製造にはコストがかかる。また、価格よりサステナビリティを優先する消費者は現在のところ少数派だ。

ここで興味深い取り組みを紹介したい。循環型ショッピングプラットフォーム「Loop」では、洗剤など、従来はプラスチック容器に入れて売られていた製品を、ステンレスなどの再利用可能な容器に入れて売ることで、購入時は容器代で割高になるが、容器を専用装置に返却すると、容器代がキャッシュバックされ、結局、消費者の支払う額は従来と同程度になる。

つまり、消費者がサステナビリティに向けた取り組みをすることで、安くなるわけではないが、割高にもならない。

このほかにも様々な方向性が考えられ、企業の知恵と工夫が試されるところだ。

生活研究部   上席研究員

久我 尚子(くが なおこ)

研究領域:暮らし

研究・専門分野
消費者行動、心理統計、マーケティング

経歴

プロフィール
【職歴】
 2001年 株式会社エヌ・ティ・ティ・ドコモ入社
 2007年 独立行政法人日本学術振興会特別研究員(統計科学)採用
 2010年 ニッセイ基礎研究所 生活研究部門
 2021年7月より現職

・神奈川県「神奈川なでしこブランドアドバイザリー委員会」委員(2013年~2019年)
・内閣府「統計委員会」専門委員(2013年~2015年)
・総務省「速報性のある包括的な消費関連指標の在り方に関する研究会」委員(2016~2017年)
・東京都「東京都監理団体経営目標評価制度に係る評価委員会」委員(2017年~2021年)
・東京都「東京都立図書館協議会」委員(2019年~2023年)
・総務省「統計委員会」臨時委員(2019年~2023年)
・経済産業省「産業構造審議会」臨時委員(2022年~)
・総務省「統計委員会」委員(2023年~)

【加入団体等】
 日本マーケティング・サイエンス学会、日本消費者行動研究学会、
 生命保険経営学会、日本行動計量学会、Psychometric Society

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