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米国株式、円建てだと今後どうなる?~景気後退なら株価下落と円高の二重苦も~

2022年07月28日

(前山 裕亮) 株式

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米国株式は実は円建てだとほぼ横ばいだった

2022年に入ってから米国株式が日本株式と比べても大きく下落している。TOPIXでは年初来の下落幅が最大で10%程度とほぼ横ばいで推移しているのに対して、S&P500種株価指数は年初来の下落幅が一時20%を上回っていることからもそのことが分かる【図表1】。
 
ただ、年初1ドル110円台だったのが3月から急速に円安が進行し、足元では130円台後半をつけており、米国株式の推移を円換算すると異なる動きとなる。円換算したS&P500種株価指数はTOPIXと同程度、もしくは上回っていることが分かる。つまり、日本から為替ヘッジせずに米国株式に投資している投資家は、株価が大きく下落した割には損失があまり出ていないと考えられる。
2022年上半期は最も売れた投信が米国株式のインデックス型になるなど、米国株式のインデックス型投信が昨年から引き続き為替ヘッジしていない低コストのものを中心によく売れた。実際に購入額を意味する設定額の推移をみると、2022年に入ってこれまでの増加基調は一服したようであるが、それでも毎月1,500億円以上の設定額を維持している【図表2】。やや売却額を意味する解約額が膨らんでいる月もあったが、1,000億円を超える純流入が続いている。このように米国株式のインデックス型投信の販売が堅調だったのは、積立投資が浸透してきたことがなにより大きいが、実はドル建ての米国株式指数ほど投信のパフォーマンスが悪くなかったことも要因としてあげられるかもしれない。

株価下落と円高の二重苦になる可能性も

今後の米国株式自体の動向と合わせて、円建てでどうなるかも気になるところである。以前1、年末に向けて景気とインフレの動向で大きく分けて、4つのシナリオで米国株式の動向を考えた【図表3】。
円建てで考える上ではさらに為替の動向を考慮する必要があるが、為替の動向はやはり米国の金融政策の動向がカギになる。インフレが収まらないほど金融引締めが継続されやすく、それに伴ってこれまでのように円安に傾きやすい。その一方で、景気が悪くなると金融引締めを緩める、もしくは金融緩和に転換する可能性があるため、円高に反転しやすくなる。そのため、シナリオ毎の為替と金利の動向は、以下のようになると考えられる:
なお、④の「インフレ長期化・景気後退」シナリオと①の「インフレ収束・景気堅調」シナリオは当局の方針次第のところもあり、順番が前後するかもしれない。

そのことを踏まえて、円建てで米国株式を考えると以下のようになるだろう。:
つまり為替を考慮してもしなくても傾向自体はあまり変わらないと思われる。ただし、円建ての場合は、筆者がメインシナリオと考えている③の「インフレ収束・景気後退」だと、株価下落と合わせ円高が進行し、円建ての米国株式投信は、より大きく下落する可能性があることが特筆すべきことである。現在、米国が急激な金融引締めを行っていることもあり③の「インフレ収束・景気後退」シナリオとなる可能性が高まっているだけに、この点は特に留意する必要があるだろう。
 
日本から為替ヘッジせずに米国株式に投資している投資家にとっては、むしろ、これからが本当に辛抱がいる相場になるかもしれない。
 
 

(ご注意)当資料のデータは信頼ある情報源から入手、加工したものですが、その正確性と完全性を保証するものではありません。当資料の内容について、将来見解を変更することもあります。当資料は情報提供が目的であり、投資信託の勧誘するものではありません。

金融研究部   主任研究員

前山 裕亮(まえやま ゆうすけ)

研究領域:医療・介護・ヘルスケア

研究・専門分野
株式市場・投資信託・資産運用全般

経歴

【職歴】
2008年 大和総研入社
2009年 大和証券キャピタル・マーケッツ(現大和証券)
2012年 イボットソン・アソシエイツ・ジャパン
2014年 ニッセイ基礎研究所 金融研究部
2022年7月より現職

【加入団体等】
 ・日本証券アナリスト協会検定会員
 ・投資信託協会「すべての人に世界の成長を届ける研究会」 客員研究員(2020・2021年度)

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