1|コロナ禍による暮らしや意識の変化と移住希望とのクロス分析
次に、移住意向を持っているのがどんな人か、どんな暮らしを希望しているのかを探るため、3でも述べたニッセイ基礎研究所の調査を用いて、「在宅勤務を利用したり、転職したりして、郊外や地方に居住したい」との設問と、本調査で設けている暮らしや働き方、消費行動の変化、意識などに関する様々な設問とのクロス分析を行った。主な結果は図表3の通りである。以下、図表の記載に沿って説明する。
まず回答者の基本属性と移住希望との関連を見ると、性別による移住希望の違いは見られなかった。次に年代による移住希望の違いを見ると、20歳代の「そう思う」、30歳代の「ややそう思う」が全体を5ポイント以上、上回る一方、70歳代では「あまりそう思わない」と「そう思わない」がいずれも全体を5ポイント以上、上回るなど、概して、年代が若い方が移住希望が強いことが分かった。これは、内閣府の調査とも矛盾しない結果である。
次に、居住エリアによる移住希望の違いを見ると、いずれの地方でもまんべんなく移住希望が見られた。従来、東京一極集中への注目から、東京圏や東京23区の在住者の動向に注目が集まりがちであるが、各地方でも、都市部から郊外部へと移住したい人がいることが分かった。
職業別では、専業主婦・主夫の「そう思う」と「ややそう思う」、会社員(事務系)の「ややそう思う」が全体を5ポイント以上、上回っていた。本調査における別の設問「コロナ前と比べて在宅勤務が増えたか」の回答結果を職業別に見ると、会社員(事務系)では、「増えた」と「やや増えた」の合計が35.7%と、全体平均(18.9%)を大きく上回っており、在宅勤務のしやすさが移住希望に影響していると考えられる。世帯年収別では、大きな差は見られなかった。
次に、回答者のライフステージ別では、子どもの成長段階と、移住希望との関連が見られた。まず「第一子誕生」の「そう思う」、「第一子小学校入学」の「ややそう思う」が全体を5ポイント以上、上回っていた。従来から言われるように、子どもの誕生や成長を機に、のびのびした子育て環境や広い住まいを求めて、移住を希望していると思われる。また、「第一子高校入学」と「第一子大学入学」の回答者も、「ややそう思う」が全体を上回った。上述したこととは逆に、子どもの独立が間近になってきて、夫婦だけでより快適な住環境、あるいは、より小さくて費用が安い住宅を求めている可能性がある。
次に、コロナ禍で生じたライフスタイルやビジネススタイルの変化が、移住希望と関連するかどうかをみていきたい。まず、買い物との関係では、コロナ前(2020年1月頃)に比べて、ネットショッピングの利用が「増加」したグループは、移住希望について「そう思う」が全体を5ポイント以上上回った。同様に、ネットショッピングの利用が「やや増加」したグループも、移住希望について「ややそう思う」の回答率が高かった。大きな百貨店や、お気に入りの店舗等が近くになくても、インターネットでいつでもどこでも欲しい商品を注文できたという経験により、居住地域へのこだわりが薄れていると考えられる。
移動手段については、コロナ前に比べて自家用車の利用が「増加」「やや増加」と回答したグループが、移住希望について「そう思う」や「ややそう思う」の回答率が高かった。同様に、自転車の利用についても「増加」「やや増加」したグループで、移住希望の「そう思う」や「ややそう思う」の回答率が高かった。「密」を避けて公共交通からマイカーや自転車移動に切り替えた人、つまり、感染リスク低減のために「疎」を求める人が、移住希望が強いと考えられる。
次に、家族生活の変化と、移住希望との関わりについてみていきたい。コロナ前に比べて、家族と過ごす時間が「増加」「やや増加」したグループは、移住についても「そう思う」や「ややそう思う」と回答した割合が高く、せっかく増えた家族との時間を、ゆったり快適に暮らしたいという住まいへの意識の変化が、移住希望につながっている可能性がある。
逆に、コロナ禍以降、「一人で過ごす時間」が「増加」、「やや増加」と回答したグループも、移住希望についてそれぞれ「そう思う」「ややそう思う」との回答率が高かった。つまり、上述したこととは逆に、コロナ禍になって一人で過ごす時間が増えたことで、より自分の好きなことをしたい、もっと趣味を楽しみたいという意識が高まった人が、それにふさわしい住環境を求めている可能性がある。
家庭生活の変化に対して、「家族と一緒に過ごす時間が増えることで、ストレスが溜まる」ことや、「家族と一緒に過ごす時間が増えることで、一人の時間が減る」ことを「非常に不安」「やや不安」と回答したグループが、移住希望について「そう思う」「ややそう思う」の回答率が高かったことからも、「移住して一人で好きなことを実現したい」という意識が生じていると見ることができるだろう。
次に、ワークスタイルとの関連では、在宅勤務が「増加」「やや増加」としたグループが、移住希望が全体より高く、「会社に通わなくても仕事ができる」という経験が、移住への関心を高めていると考えられる。
最後に、家計との関連についてみていきたい。コロナ禍に入って「勤務先の業績悪化による雇用の不安定化や収入減少」を「非常に不安」「やや不安」と回答しているグループ、「自分や家族の収入減少」を「やや不安」と感じているグループは、移住希望が全体よりも高かった。コロナ禍で雇用条件が悪化したり、収入が減ったりすることを不安に感じている人が、より住宅費や物価の安い郊外や地方への移住を希望していると考えられる。