2022年3月から、江蘇省で定年退職年齢の延長が導入されている。江蘇省人力資源社会保障庁は、2022年1月、新たに年金に関する規定を定め、そこに定年退職年齢の延長を盛り込んだ
1。
定年退職年齢の延期のように、社会的に大きな反響が予想される政策の場合、まず地方都市から試験的に導入し、反応をうかがいながら順次全国に広げていくという、中国ではよく用いられる手法である。現行法では、定年退職年齢が年金受給開始年齢であることから、社会的な反響が大きい。定年退職年齢の延長は主務官庁である人力資源社会保障部にとって長年の懸案事項でもあり、素案を社会に提示しては押し返されるという状況が続いていた。今般、江蘇省では現行の定年退職者年齢に達した被雇用者全員を対象とするなど、一歩踏み込んだ内容となっている
2。地域は限定されるが、導入が試みられる意義は大きいであろう。
中国において法律で定められた定年退職年齢は、原則として、男性は満60歳、女性は満55歳(幹部職や管理職)または満50歳(一般労働者)である
3。性別で異なり、女性は職場での属性によって複数種に分かれているのが特徴である。定年退職年齢のあり方や枠組みは、1950年代の計画経済期に決定されて以降、70年にわたって抜本的な改定がされていない状態にある
4。
今般、江蘇省の趣旨としては、(1)性別に関係なく、本人が希望し、雇用主が同意すれば最短で1年から定年退職年齢の延長を可能とする、(2)女性の一般労働者の定年退職年齢を50歳から55歳に引き上げる機会を増やす(幹部職や管理職と同一にしていく)といった点にあろう(図表1)。
女性の定年退職年齢に関する内容が多い理由は、幹部職・管理職または一般労働者に関する要件が法律では明確に定められておらず、政省令レベルでも異なる点にあろう。本人の認識と雇用主側の認識が異なるなどのトラブルもあり、今後は定年退職年齢の統一という方向で進んでいる点がうかがえる。
また、こういった定年退職年齢の区分(幹部職・管理職/一般労働者)は、改革開放政策前の計画経済期において形成され、キャリアパスや賃金が異なるだけではなく、歴史的に一種の身分上の区分としても認識されてきた経緯もある
5。しかし、現在の市場経済下における社会においては、雇用のあり方の変革や働き方の多様化が進んでおり、こういった歴史的な区分は実質的には過去のものとなりつつある。現代の雇用や働き方と、70年前の定年退職年齢のあり方に大きなミスマッチが発生していたのだ。