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CBDC導入で得られる社会的便益
一方、CBDCがもたらす社会的便益や経済的便益は、クロスボーダー決済への発展や新たなサービスの誕生といった様々な可能性が考えられることもあり、定量的に評価することは難しいかもしれない。国民がCBDCの付加価値やメリットについて理解を深めるためには、ユースケース
3からCBDCが活用される、具体的なイメージを持つことが必要かもしれない。
例えば、欧州では、デジタルユーロのユースケースに関する検討も進んでいる。欧州中央銀行(ECB)が2月に公表した資料
4によると、デジタルユーロのユースケースとして、(1)P2P(個人間送金)、(2)C2B(企業個人間で行われる実店舗および電子商取引を介した決済)、(3)B2BおよびB2C(企業を起点とする決済)、(4)政府への支払や政府からの給付、(5)IOTペイメント(装置を起点とした自動決済)の5つが検討され、政策目標との適合性や利用者の獲得可能性と言った点から、(1)P2Pと(2)C2Bの2つに焦点を当て、優先的に検証して行くことが示されている。
このうち(1)P2Pは、欧州に人口の大半をカバーするような単一のP2Pソリューションがなく、デジタルユーロの導入でネットワーク効果を高めることができれば、利用者の利便性向上につながることが評価されたと見られる。他方、(2)C2Bについては、各国のカードや即時決済などの国内決済ソリューションが国境を越えてほとんど機能せず、欧州全体で実店舗取引や電子商取引を行うには、少数の世界的な決済サービス提供企業に依存しなければならず、デジタルユーロはそのような状況を改善し、金融や経済面における欧州の戦略的な自立性の獲得につながることが評価されたと見られる。
もちろん、CBDCがもたらす社会的便益や経済的便益は、これだけではないだろう。ECB自身もIOTペイメントの拡大など、他のユースケースも将来的に追加できるよう検討している。欧州が積極的に検討するクロスボーダー決済も、国際送金の非効率性を改善する1つの手段として、有望なユースケースとなる可能性はある。
欧州では、具体的なユースケースが示されたことで、利用者にとっての便益がどのようなものか、ある程度見えてきたように思われる。日本でも様々なユースケースを検討し、CBDCの果たすべき役割を提示して見せることは、国民がコストとの比較で発行の是非を判断するうえで有益となろう。
3 システムの開発段階で作成する利用者の要求や利用目的を明確に定義したもの。システムの使用例のこと。
4 European Central Bank,"The euro as a digital currency –state of play –",25 February 2022
4――おわりに