貿易統計22年5月-原油高、円安の影響で貿易赤字が急拡大

2022年06月16日

(斎藤 太郎) 日本経済

1.貿易赤字(季節調整値)が拡大

財務省が6月16日に公表した貿易統計によると、22年5月の貿易収支は▲23,847億円の赤字となり、赤字幅は事前の市場予想(QUICK集計:▲20,225億円、当社予想は▲20,662億円)を上回った。輸出(4月:前年比12.5%→5月:同15.8%)、輸入(4月:前年比28.3%→5月:48.9%)ともに前月から伸びを高めたが、原油高、円安の影響で輸入の伸びが輸出の伸びを大きく上回ったため、貿易収支は前年に比べ▲21,717億円の悪化となった。なお、ロシア向けの輸出は前年比▲57.1%(4月:同▲69.3%)、輸入は前年比49.8%(4月:同67.7%)となった。

輸出の内訳を数量、価格に分けてみると、輸出数量が前年比▲3.5%(4月:同▲4.4%)、輸出価格が前年比20.0%(4月:同17.7%)、輸入の内訳は、輸入数量が前年比4.7%(4月:同▲9.0%)、輸入価格が前年比42.2%(4月:同40.9%)であった。
季節調整済の貿易収支は▲19,314億円と12ヵ月連続の赤字となり、4月の▲15,805億円から赤字幅が大きく拡大した。輸出は前月比2.4%の増加となったが、輸入が同5.8%と輸出の伸びを大きく上回った。貿易収支の赤字幅は消費税率引き上げ前の駆け込み需要で輸入が急増した14年3月(▲20,626億円)以来の大きさとなった。

5月の通関(入着)ベースの原油価格は1バレル=107.9ドル(当研究所による試算値)と、4月から横ばいとなった。足もとの原油価格(ドバイ)は、110ドル台後半で推移しており、通関ベースの原油価格は6月以降も高止まりが見込まれる。輸入価格の上昇を主因として、貿易収支(季節調整値)は当面大幅な赤字が続く可能性が高い。

2.中国向け輸出の低迷が続く

22年5月の輸出数量指数を地域別に見ると、米国向けが前年比▲1.2%(4月:同8.0%)、EU向けが前年比▲1.9%(4月:同6.7%)、アジア向けが前年比▲4.3%(4月:同▲8.2%)、うち中国向けが前年比▲17.6%(4月:同▲22.6%)となった。

22年5月の地域別輸出数量指数を季節調整値(当研究所による試算値)でみると、米国向けが前月比▲4.5%(4月:同3.2%)、EU向けが前月比▲5.7%(4月:同▲3.5%)、アジア向けが前月比1.3%(4月:同▲0.1%)、中国向けが前月比1.0%(4月:同▲9.7%)、全体では前月比2.8%(4月:同▲2.8%)となった。
5月は米国、EU向けが減少、アジア向けが増加したが、22年4、5月の平均を1-3月期と比較すると、米国向けが11.6%、EU向けが3.6%上回り、一定の底堅さを維持する一方、アジア向けが▲1.3%、中国向けが▲12.8%下回っている。

中国向け輸出はロックダウンの影響で3、4月の2ヵ月で▲15%程度落ち込んだ後、5月はほぼ横ばいにとどまった。中国のロックダウンは6月に解除されたものの、ゼロコロナ政策の影響が残っていることから、中国向け輸出の持ち直しは緩やかにとどまる可能性が高い。
自動車輸出(対世界、台数ベース)は前年比▲16.6%(4月:同▲11.1%)と5ヵ月連続で減少した。季節調整値(当研究所による試算値)では、前月比▲3.3%(4月:同▲2.5%)となり、22年に入ってから弱い動きが続いている。

自動車は、半導体不足や新型コロナウイルス感染拡大による供給制約によって、一部工場の稼働停止が続いてきたが、中国のロックダウンが加わったことで、稼働停止の工場がさらに増えている。鉱工業生産の輸送機械は5月が前月比8.7%、6月が同10.7%の大幅増産計画となっているが、自動車輸出の動向を踏まえれば、実際の生産は計画から大きく下振れる可能性が高い。
 
 

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経済研究部   経済調査部長

斎藤 太郎(さいとう たろう)

研究領域:経済

研究・専門分野
日本経済、雇用

経歴

・ 1992年:日本生命保険相互会社
・ 1996年:ニッセイ基礎研究所へ
・ 2019年8月より現職

・ 2010年 拓殖大学非常勤講師(日本経済論)
・ 2012年~ 神奈川大学非常勤講師(日本経済論)
・ 2018年~ 統計委員会専門委員

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