ロシアの物価状況(22年3月)-経済・金融制裁の影響で急上昇

2022年04月11日

(高山 武士) 欧州経済

1.結果の概要:前年比で16.7%、前月比で7.6%

4月8日、ロシア連邦統計局は消費者物価指数を公表し、結果は以下の通りとなった。
 

【総合指数】
前年同月比は16.69%、市場予想1(16.90%)を下回り、前月(9.18%)から加速(図表1)
前月比は7.61%、予想(7.82%)を下回り、前月(1.20%)から加速

【コア指数2
前年同月比は18.69%、予想(17.30%)を上回り、前月(9.74%)から加速(図表2)
前月比は9.05%、予想(8.28%)を上回り、前月(1.04%)から加速

 
1 bloomberg集計の中央値。以下の予想値も同様。
2 生鮮食品など季節的要因による影響を受ける品目や管理品目を除いた指数。

2.結果の詳細:生鮮食品や電化製品、海外旅行の上昇が目立つ

3月(末)のロシアのインフレ率は前年比で16.69%となり、2月の9.18%から急加速した。2月のロシアによるウクライナ侵攻を受けて、西側諸国は経済・金融制裁を実施、ルーブルが一時急落し、また西側諸国との貿易が制限されたことで、輸入コストが上昇したため、国内の物価上昇圧力が急激に高まった。大分類別に見ると、食料品が前年比17.99%、財(非食料品)が20.34%、サービスが9.94%となった。コア指数は前年比18.69%となり、食料品を含む財価格が特に大きく上昇した。一方、サービス価格は高い伸び率だが、前年比で2桁の上昇率には届いていない。

総合指数の前年比16.69%は2015年3月(16.92%)以来の高いインフレ率となった。なお、2015年はロシアのクリミア併合後に原油価格が下落したことを受けてルーブル相場も急落、輸入インフレによって物価上昇圧力が生じていた3

3月のインフレ率を前月比で見ると7.61%となった。クリミア併合後のインフレ率の前月比でのピークが15年1月の前月比3.85%だったことに鑑みると、今回のインフレ進行の勢いがかなり速いことが分かる。なお、前月比で7.61%というインフレ率は98年12月(11.61%)以来であり、当時はロシア危機により、前月比38.43%(98年9月)のピークをつけている(図表3)。

一方、別途、ロシア連邦統計局が公表している週次のインフレ率(消費者物価上昇率)で見ると、週次ペースでの上昇は3月4日の前週比2.2%をピークに、4月1日には前週比0.99%まで減速している(図表4)。したがって、今後は、前月比インフレ率も鈍化する兆しがあると言える。
次に、品目別の上昇率を見ると4(図表5)、前年比ではグラニュー糖(70.16%)、海外旅行サービス(54.90%)、テレビ(42.10%)、電化製品(38.48%)の上昇が目立つ。前月比でみた上昇率もこれらの品目の上昇幅が大きい。
各品目の消費ウエイトも考慮して、全体のインフレ率への寄与を品目別に見ると(図表6・7)、前年比上昇率への寄与が大きい品目は青果物(1.6%ポイント)、肉(0.7%ポイント)、乳製品(0.6%ポイント)、海外旅行サービス(0.6%ポイント)だった。同様に前月比上昇率への寄与が大きい品目は青果物(0.7%ポイント)、その他サービス(0.4%ポイント)、海外旅行サービス(0.4%ポイント)、電化製品(0.4%ポイント)となった。
 
3 クリミア併合後のルーブル下落と高インフレとウクライナ侵攻後の状況の比較は高山武士(2022)「経済・金融制裁とロシア中央銀行の対応」『基礎研レター』2022年3月30日を参照。
4 大分類である食料品、財(非食料品)、サービスをそれぞれ細目別に分類したもの(中分類)のうち、統計局のウェブサイトで公表しているものを記載。ただし、ウェブサイトで中分類が公表されていないものは、より細かい品目(小分類)のデータを記載(中分類を公表しているものは、より細かい分類は記載していない)。
 
 

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経済研究部   主任研究員

高山 武士(たかやま たけし)

研究領域:経済

研究・専門分野
欧州経済、世界経済

経歴

【職歴】
 2002年 東京工業大学入学(理学部)
 2006年 日本生命保険相互会社入社(資金証券部)
 2009年 日本経済研究センターへ派遣
 2010年 米国カンファレンスボードへ派遣
 2011年 ニッセイ基礎研究所(アジア・新興国経済担当)
 2014年 同、米国経済担当
 2014年 日本生命保険相互会社(証券管理部)
 2020年 ニッセイ基礎研究所
 2023年より現職

【加入団体等】
 ・日本証券アナリスト協会 検定会員

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