政府は、特定技能の制度見直しに向けて、早ければ来年2022年3月の正式決定を経て、省令などの改正に着手する意向とされる。しかし、それには国民の理解や共感を得ることが必要であり、説明力のある仕組みや制度を示すことが求められる。
なお、今般の特定技能「2号」の受入れ対象の拡大については、少子高齢化が進む日本の現状や、外国人材の獲得競争が激しくなる国際的な情勢を踏まえれば、妥当性が高い措置だと考えられる。
足元では、コロナ禍で需要が低迷しているとは言え、感染収束後には、宿泊や外食、航空サービスなどでも、需要の回復が期待される。また、特定技能「1号」の受入れ分野は、人手不足が深刻であった業種であり、需要が戻れば外国人材への需要も回復していくと見られる。さらに、国内の生産年齢人口は、少子高齢化による影響で長期的に減少していくことは避けられず、今後も一定程度、外国人材に頼ることは必要になると思われる。
また、少子高齢化は日本だけの問題ではなく、外国人労働者の主要な送り出し国である、中国やベトナム等でも着実に進行している。しかも、それらの国の成長力は日本よりも高く、所得環境の差も以前ほど大きくはない。日本が将来に渡って、必要とする人材を確保していくためには、外国人に魅力的に映る制度が必要となる。長く働くことのできる環境は、そのための重要な要素と言える。
さらに、日本に長く滞在し、何の問題もなく社会経済に貢献してきた人材は、日本にとって有用な存在でもある。そのような人材の貢献に報い、さらなる活躍を期待する意味でも、受入れ拡大に動くことは意義があるだろう。
一方で、永住権の取得にもつながる特定技能「2号」の拡大は、長期的に国の在り方にも影響を及ぼし得る点で、国内にも異論がある。その懸念を和らげ、国民の理解や納得感を高めていくためにも、その制度設計や運営方法については、しっかりと検討していくことが必要だろう。
例えば、特定技能「2号」の技能レベルは、比較的要件の緩い「1号」と異なり、現行の「専門的・技術的分野」の在留資格と同等か、それ以上に高い水準が求められる。これは、一般的なイメージとは若干異なる可能性があり、その点については国民の間に誤解が生じないよう、十分丁寧に説明していく必要はあると思われる。ただ、特定技能「2号」の移行試験については、2022年1月時点で、まだ「建設分野」「造船・舶用工業分野」のいずれでも実施されていない。実際に、どの程度の技術水準が求められるかは、今後の運営次第の面もあり、十分注意してみていく必要はあるだろう。
なお、特定技能「2号」への現実的な移行資格である特定技能「1号」については、少なくとも現状を振り返る必要はあると思われる。2019年からの5年間で、最大34.5万人を受け入れるとした数値は、コロナ禍以前の前提に基づいており、足元の経済や雇用状況を反映していない。また、労働力不足見込み数の内訳である、生産性や国内人材の確保状況についても確認が必要だろう。生産性の状況については、景気動向に左右される面もあり、短期的な変化に着目することにあまり意味はないが、分野別に置かれた前提に、妥当性があるかは検証していくべきだろう[図表5]。さらに、今般の見直しで、特定技能「1号」の対象分野が、そのまま特定技能「2号」の対象分野となり得ることが示された。その受入れの必要性や規模については、より精緻に検討していくことが求められる。