(2) 移動時間の減少と健康不安~ニッセイ基礎研究所のコロナ調査より~
次に、高齢者の移動の減少と健康不安との関連について、ニッセイ基礎研究所の「
第7回 新型コロナによる暮らしの変化に関する調査」から確認したい。
筆者の基礎研レポート「
コロナ禍における高齢者の活動の変化と健康不安への影響」(2022年1月)では、新型コロナの感染拡大前後の生活時間の変化について、回答者を20~64歳の非高齢者と65歳以上の高齢者に分けて整理した。それによると、「移動時間(通勤・通学を含む)」が「減少」と回答した人は、65歳以上の高齢者では26.7%、非高齢者では20%となり、高齢者の方が6.7ポイント上回っていた。
年齢区分をしていない上述のY. Hara and H.Yamaguchi (2021)の調査でも、コロナ禍において人々の移動が大きく減少したことを示していたが、高齢者に限ってみると、非高齢者よりも減少幅が大きくなる可能性を示した。高齢者の方が、コロナ罹患による重症化率が高いために、より外出を控える傾向が強いと考えられる。
次に、高齢者の移動時間の減少が、他の活動の変化とどのように関連しているかをみていきたい。なお、ここでは同調査において「移動時間」が「増加」「変わらない」と回答した人を「増加・維持群」とまとめて、「減少群」との比較を行った。
その結果、「移動時間」の減少群は、増加・維持群に比べて、「運動時間」や「趣味や娯楽、スポーツ時間」、「交際やつき合い時間(オンラインを含む)」が「減少」と回答した割合が大きかった(図表1)。これは「運動」や「趣味や娯楽、スポーツ」、「交際やつき合い時間」に付随して、移動が発生することを示しているだろう。この結果は、「はじめに」で述べた「移動を自粛すれば、人々の日常生活そのものが不活発になり、身体活動が減るだけではなく、社会参加の機会も縮小することになる」ことを裏付けている。なお、ここで言う「運動時間」は、散歩など、負荷が小さく、軽く身体を動かすものを想定している。
「交際やつき合い時間(オンラインを含む)」については、増加・維持群に限ってみても「減少」が過半数に上ったが、これは、設問にオンラインの時間を含めたためだと考えられる。
次に、移動時間の減少と様々な健康不安との関連について、再び筆者の上記レポートからレビューしたい(図表2)。
移動時間の減少群は「運動不足による健康状態や身体機能低下」に対して「不安」との回答が58.1 %に上り、増加・維持群に比べて約14ポイント高かった。他人との接触を避けて外出を自粛した高齢者の多くが、結果的に身体を動かす時間が減り、身体機能低下を懸念していることが分かる。
同様に、移動時間の減少群では、「コミュニケーション機会の減少による認知機能の低下」への不安を感じている人は33.3%おり、増加・維持群に比べて約12ポイント高かった。「コミュニケーション機会の減少により、うつなど心の病気になる」への不安を感じている人も30.8%であり、増加・維持群に比べて約11ポイント高かった。また、「孤独や孤立」への不安を感じている人は28.2%で、増加・維持群に比べて約11ポイント高かった。
以上のように、コロナ後に移動時間が減少した高齢者は、そうではない高齢者に比べて、身体機能の低下、認知機能の低下、うつ症状、孤独・孤立のいずれに対しても、不安を感じている人が多い傾向が分かった。移動を減らしたことで、歩いたり、階段を上り下りしたりして体を動かす機会が減っただけではなく、移動先で友人・知人らと交流したり外食したりし、口腔機能や脳を使う機会も減ったためだと考えられる。
この調査は、心身の健康状態等の悪化について、本人が不安を感じているかどうかを尋ねたものであり、実際に心身の機能が低下したかどうかを、基本チェックリストの点数や身体測定などで確認したものではない。しかし、先行研究では、外出(移動)は死亡率の低下や認知症予防などに効果があることが示されているため、不安調査は実態と乖離するものではないと考えられる。