坊: 最後に、チョイソコの今後の役割と期待について議論したいと思います。チョイソコは全国に広がって有名になりましたが、実は第一号の豊明市でも昨年度までは実証実験段階であり、市の公共交通網形成計画(2017~2021年度の5か年計画)にも記載が無いので、公共交通同士の役割分担が明確になっていない部分があったかと思います。今まさに、早川さん中心に、新しい地域公共交通計画を作成されているので、この中でチョイソコをどう位置付け、豊明市全体の交通ネットワークをどのように活性化していくかというところだと思います。
そこで、チョイソコがどのような役割になるかについて、これまでの公共交通会議の配布資料から探ってみると、各交通手段の役割分担に関して「鉄道は都市間幹線、路線バスは広域幹線、コミュニティバスは市内の拠点間の移動、チョイソコはそれらに接続する移動や高齢者向けの移動、タクシーはその他の個別輸送」というような記載がありました
1。主に、運送距離と乗客数を軸にした整理の仕方です。交通政策として考えるとそうだと思いますし、私もそのような考え方をしているのですが、乗る人はそんなこと考えていない。乗る人はただ、自分が乗りたいものに乗るだけです。そこで、乗る人の立場から、「乗りたいもの」とはどういうことかについて考えてみました。
「乗りたい」とは、それぞれの移動サービスの付加価値だと思います。例えばタクシーで言えば、ビジネス客にとって手間暇を省けるメリットが大きい。駅や停留所まで行かなくて良い、どこからでもさっと乗れる、乗っている間に電話やメールができる、そして目的地の目の前まで運んでくれる。いわゆる「可処分時間」を作ってくれる乗り物で、時間が無いビジネス客には便利です。
同じように考えると、チョイソコのメリットは「コミュニティ形成」ではないかと思います。運営スキーム上、走行エリアや乗る人が限られるということは、逆に、乗客同士で顔見知りになるチャンスがあるという点が付加価値ではないでしょうか。乗合が成立することが前提になりますが。
この対談で、福井県永平寺町の河合永光町長と対談したときに、永平寺町でボランティアドライバーさんを使って乗合タクシーを始めたところ、すごく地域が活性化したと、誇らしげにおっしゃっていました。ドライバーと高齢者が会話を楽しんだり、乗客同士が友達になって一緒におでかけするようになったりしたと。高齢者の見守りにもつながっているし、いざ災害が起きた時にも必ず役立つ、というお話でした。チョイソコも、ドライバーさんはタクシー会社という違いはありますが、乗客同士が交流していけると思います。
豊明市は、高齢者にお出かけの機会を創出する「コトづくり」を目的にチョイソコを始められましたが、今後はさらにその先を目指してほしいと思います。ジェロントロジーの知見で言えば、単に外出することで健康促進につながるというだけではなく、高齢者が地域で社会参加することによって、誰かの役に立っていると実感できたり、感謝されたりすると、死亡率の低下に寄与するし、本人のwell-beingにつながると言われています。チョイソコもそこまでいけるといいなと期待しています。
アイシンは、積極的にイベントを企画されていますが、高齢者を単にイベントの参加者、移動サービスの客体として見るのではなく、移動サービスを介して、豊明の地域を創っていく主体になって頂くことが理想だと思います。例えば、イベントの参加者同士が自主的に地域でボランティア活動を始めるようになるとか、先ほど加藤さんのお話にあったような、一人ではチョイソコに乗れない高齢者に介助のボランティアをするということが考えられます。その場合は、ボランティアさんのチョイソコ利用料については、行政で助成の仕組みを考えてもらうなどできれば良いなと。一口に「高齢者」と言っても、身体能力や認知能力の状態は様々なので、長い高齢期の前半、まだ元気で動けるうちは支える側に回って、その活動によって生き生きして暮らしてもらえることが一番理想的。後半になって足腰や認知能力が弱ってきたら、今度は支えてもらう側になる、というように発展してもらえると良いなと思います。
1 令和3年度第2回豊明市地域公共交通会議配布資料。