課金経験がない人の7割以上が、ゲーム内で「誰ともコミュニケーションをとらない」のに対して、逆に課金経験者の7割近くがゲーム内で他のプレイヤーとコミュニケーションをとっていることもわかっており、ゲームに課金しているユーザーの方がよりコンテンツをインタラクティブに消費しているともいえる。一昔前は、カードゲームや最新のテレビゲームやオモチャが自慢の対象となっていたが、今は課金金額や課金をしなくては出てこないキャラやアイテムが自慢の対象となっている
21。また、形のない無形物(データ)に対する投資は、モノ消費に価値を見出す人たちからは、意味のない消費であると思われがちだったが、米国アプリ調査会社のSensorTowerによる「App StoreとGoogle Playにおける国別の支出額調査」
22によれば2012年の日本人一人当たりのアプリの平均支出額は5ドルであったが2021年では149ドルと大幅に増加しており、「課金」という行為はごく一般的な行為となってきている。このようなコンテンツに対する「課金」という行為の一般化や、サブスクリプションやレンタルによる所有しないという選択が普及したことで、モノを
所有しない事が普通になっているからこそ、実像がないモノにも価値を見出すことができる、という価値観が消費者に浸透していったのである。応援消費においても、いわば何の見返りもなく
23、「応援する」という体験の手段としてお金を支払っており、消費者はお金による「応援」という行為に対して何ら抵抗感はないのである
24。
物語消費においても、以前から消費されてきた①ノンフィクションドキュメンタリー型と③コンテクスト型のみならず、②企画型に対する消費も増えてきた。特に昨今増加した視聴者参加型のオーディション番組は、視聴者が投票という形で関与することで、自身も物語を構成する一部として当事者意識を得やすくなっている。
このように我々がもともと消費してきた「ヒト」も、市場環境の変化により、より消費者が消費したいと思う対象へと昇華していったのである。この「ヒト消費」は、今後も普遍的な消費対象として、我々の消費行動のなかに定着していく一方で、これらのコンテンツ消費に対して熱心ではない消費者にとっては実感しにくい消費であることから、熱心に「ヒト消費」を行う消費者と、全くしない消費者とで二極化していくと筆者は考える。また、誤解されないように付け加えると、今回のレポートで取りあげた「モノ消費」や「コト消費」はあくまでも潮流であり、いわば消費行為におけるトレンドの事なのである。「モノを所有する事自体に人々が価値を見出さなくなった」、「今、消費者の欲求を満たせるのはトキ消費だけである」といった一辺倒な話ではない。現代社会において、消費者が満たしたいと思う欲求を
満たす手段が、時代の流れとともに変化しているという話なのである。そのため、もちろん「ヒト消費」という潮流もいずれは別の何かに変化していくのであろうが、その変化を追いかけることこそが消費を楽しむ本質の一つであると筆者は考える。