全体をみると、2011年度調査の37.6%から右肩上がりに増加し、2020年度調査では70.2%(2011年度比+32.6ポイント)となっている。シニア層においても同様に増加しており、シニアの各年代における利用率はこの10年間で"60~64歳"では63.4%(同比+45.3ポイント)、"65~69歳"では52.8%(同比+38.7ポイント)、"70~79歳"では43.1%(同比+32.4ポイント)、"80歳以上"では36.2%(同比+27.8ポイント)と、全ての年代において大幅に増加している。SNSは主に若者が使用しているイメージが強いが、このように60代においても半数以上が利用しており、もはやシニア層においても日常的に使われていると言ってもよいだろう。
このようなシニア層におけるソーシャルメディア利用者の増加の背景には、SNS
3市場の拡大とネットワーク外部性があると筆者は考える。まずSNS市場の拡大である。SNSは今でこそ手軽にスマートフォンから利用でき、そのインターフェイスもスマートフォンを意識した仕様になっているが、通信利用動向調査によれば、2011年度調査が行われた当時のスマートフォンの普及率は14.6%であり、多くのSNSはパソコンやガラケーを用いて利用されていた。また、当時は音楽や芸術に特化したMyspaceや紹介制のmixiが主流であり、そもそもシニア層がターゲットとは言えない状況にあったといえる。しかし、2016年にはスマートフォン普及率は56.8%に増加し、それに伴いInstagramやTwitterなどスマートフォンを意識したSNSの人気が高まっていった。従来のパソコンを利用したSNSでは、使用できる場所に制限があることに加え、写真や動画といったメディアを投稿するには、一度パソコンに取り込んでからアップロードする必要があるなど、利便性に問題があった。しかし、スマートフォンの登場により撮影した写真を気軽に、即時に投稿することが可能となった。また、時間や場所を問わず、SNSを通じてリアルタイムのコミュニケーションがとれるなど、スマートフォンの機能や提供価値がSNSの特性とマッチしていったのである。特にInstagramは2014年12月の国内認知度は48.6%であったが、2016年1月には72.8%に増加 しており、2017年には「インスタ映え」という言葉が流行語に選ばれている。このようにスマートフォンの普及に伴いSNSユーザー数も拡大することで、シニア層においてもその利用価値を見出す層が増加したものと考える。
次にネットワークの外部性である。ネットワークの外部性とは、同じ商品・サービスを消費する個人の数が増えるほど、その商品・サービスから得られる利便性や効用が増加する現象を指す。例えば「メルカリ」のようなフリマアプリでは、利用者(登録者)が少ない場合、売り手にとっては商品の販売相手が少なく、買い手にとっては購入できる商品の種類が少ないため、利便性を見出しにくい。しかし、利用者が増加するほど購入者そして、販売されている商品の種類も総じて増加するため、サービスそのものの価値が高まり、消費者が数あるフリマアプリからそのアプリを選考する動機付けに繋がるのである。そこで"65~69歳"の層におけるソーシャルメディアの利用率をみると、2020年度調査では52.8%であるが、彼らが"60~64歳"であった2015年度の調査結果では23.6%であり、この5年間で約30ポイント増加している。前述した通り 1995年に登場したWindows95をきっかけにインターネットは一般的な通信ツールとなり、日常的な仕事においても使用される機会が増えていった。2020年度調査で"65~69歳"の層は、1995年当時は"40~44歳"であり、この年代層は、現在に至るまでにインターネット環境に囲まれた中で日常を過ごてきたデジタル・イミグラントとして通信環境に適応していった者も多いと推測される。実際に1996年度の 通信利用動向調査では、業務で5割以上パソコンを使うと回答した"40~49歳"は35.1%であった。更にFacebookとTwitterの日本版が公開された2008年には彼らは"53~57歳"であり、年齢的にもみてもSNSに興味を持ち参加するようになったとしてもおかしくない。とりわけFacebookはビジネスの場面において名刺交換代わりにフレンド登録されることも多く、利用者が未利用者に対してサービスを紹介し、関係する人たちを巻き込みながらネットワークを拡大していくという、正にネットワークの外部性によって同年代の利用者が増加していったと考えられる。
一方で高齢者の中でも上述のようなデジタル・イミグラントとしてSNSに慣れ親しんだ者以外の者についても、シニア向けのSNSが誕生している。なかでも「趣味人倶楽部」、「らくらくコミュニティ」、「Slownet」といったサービスは、高齢者同士が使いやすいインターフェイスで高齢者のネットワークや交友関係の拡大をサポートしている。
また、「令和元年度 情報通信メディアの利用時間と情報行動に関する調査報告書」
4のSNS種別利用率によると、60代ではFacebookが12.1%、TwitterとInstagramがそれぞれ9.3%、Tiktokが2.8%である一方で、YouTubeは44.8%であった。株式会社アスマークの「シニアのSNS利用実態・認知購買行動調査」
5によれば、YouTubeはシニア層においては、息抜き・暇つぶしという用途とは別に情報収集の場として利用されている。シニア層にとって、YouTubeは「自分の好きなジャンルの情報を得るため」と「気になる商品・サービス等の情報を得るため」という目的においては、Twitter、Instagram、Facebookよりも高い割合を示している。このことを踏まえると、シニア層において興味がある動画を視聴するだけでなく、視聴経験を購買行動の参考にするという側面は、ハッシュタグを用いて商品情報を収集する若者のSNSを利用した消費行動に類似性を見出すことができると筆者は考える。